第2話:はじまりの剣
「この手に宿った光は、偶然じゃない。」
自分の魔法を“意志”として受け入れ始めるリオの第一歩。
轟音とともに、魔獣が地面に倒れ込んだ。
「《雷鎖陣》、展開完了! 拘束完了です!」
「魔力封鎖結界、維持中! 魔獣の反応、沈静化を確認!」
訓練場の空気が、ようやく落ち着きを取り戻す。
学院の教官たちが次々と魔法を展開し、暴走魔獣を完全に鎮圧していく。
その中心で、リオは呆然と立ち尽くしていた。
右手には、まだ微かに光の残滓が漂っている。
透明な光の刃——《ルミナブレード》。
自分の魔力が“剣”という形を取った、それが信じられなかった。
「……消えた……」
ふっと、剣が光の粒となって空に溶けていく。
リオの手には、何も残っていなかった。
「今の……魔法、だったのか?」
誰にともなく呟いたその声に、答える者はいなかった。
ただ一人、セラ・アルヴィナを除いて。
「……あなた、いったい何者なの?」
氷のような瞳が、リオをまっすぐに射抜いていた。
その視線に、リオは言葉を失った。
◇
「魔力の急激な消耗による軽度の脱力症状。しばらく安静にしていれば問題ないでしょう」
医務室で、回復魔導士がそう告げた。
リオはベッドの上で、天井を見つめていた。
(あれは……本当に、俺の魔法だったのか?)
魔法が使えないはずの自分が、魔力を“剣”に変えた。
それは、今まで誰にも教わったことのない、未知の魔法だった。
「具現化……魔力を、形にする……?」
思い返せば、魔力回復薬を作るときも、
リオは魔力を“液体”として圧縮・凝縮していた。
それも、ある意味では“形にする”行為だったのかもしれない。
(じゃあ、あれも……俺の魔法だったのか?)
自分だけの魔法。
誰にも真似できない、誰にも教わっていない力。
リオの胸の奥に、小さな火が灯る。
◇
翌朝、リオは訓練場に立っていた。
まだ誰もいない早朝。
右手を前に出し、深く息を吸う。
「昨日と同じように……魔力を、集中させて……」
イメージする。
剣の形。重さ。質感。光の流れ。
そして、誰かを守りたいという気持ち。
——光が、集まる。
「……出ろっ!」
リオの手に、再び剣が現れた。
《ルミナブレード》。
昨日よりも少しだけ、輪郭がはっきりしている。
「……できた……!」
喜びと驚きが入り混じる中、背後から声がした。
「それが、あなたの魔法?」
振り返ると、そこにはセラが立っていた。
制服の裾を風に揺らしながら、冷静な瞳でリオを見つめている。
「昨日の戦い、見ていたわ。あの剣……普通の魔法じゃない」
「……うん。俺にも、よくわからない。でも、これが……俺の魔法なんだと思う」
セラはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「興味があるわ。あなたの魔法に」
それは、彼女が初めて見せた“肯定”だった。
リオの胸が、少しだけ熱くなる。
◇
その日から、リオは毎朝訓練場に立ち、具現化の練習を始めた。
剣だけでなく、盾や鎖、弓など、さまざまな形を試していく。
魔法が使えない少年は、
魔力を“形”にする魔法使いとして、歩き始めた。