エピローグ:痛みの夜、始まりの光
大試練祭編終了。次回より新章です
ルゥナは、学院の医療塔で静かに眠っていた。
傷ついた翼は布で包まれているが、かすかに火光が灯るたび、
ミナはその背に手を添えて、小さく呼びかけた。
「……ごめんね。もっと、守れるって思ってた」
ルゥナは応えなかった。
けれど、灯りは揺れていた。
その揺れが、優しさなのか痛みなのか――ミナには、まだ分からなかった。
◇
学院の塔では、リオがひとり剣の手入れをしていた。
磨かれる光剣の表面に、夕焼けが映り込む。
その奥には、あの“本気の一太刀”カインの剣技が、未だ鮮やかに刻まれていた。
「……強かった、じゃ言い足りない。あれは、何か抱えてた」
剣を見つめながら呟く。
セラが静かに階段を登り、リオの背に言葉を投げた。
「彼の剣は、答えを探していたのよ。誰かに、じゃなくて……自分に」
リオは振り向かず、ただ小さく頷く。
「それでも、守ろうとしてくれた。――俺たちを」
セラはリオの隣に立ち、夕焼けに目を細める。
「あなたもそうよ。今のあなたは、“誰か”じゃない。“君自身”として、そこに立ってる」
その言葉に、リオは剣の手を止めた。
――その温度が、じわりと胸に染み込んでいく。
◇
ミナは夜の庭園で、カインと向き合っていた。
風に揺れる水面の前で、カインは頭を下げる。
「ミナ。ルゥナに、申し訳ない。――君にも」
ミナはしばらく黙っていた。
そして、小さく言った。
「そんな謝罪なんてっ……」
二人の間に静かな時間が流れる、
「気にしないでください。試合だったので。」
カインの瞳が揺れる。
痛みと、感謝と、赦しが交差していた。
「……すまない。もし今後私にできることがあれば何でも言ってくれ。」
◇
その夜、学院の塔に小さな魔力の揺れが走った。
塔の奥底――魔導記録室の封印が、一部軋みを見せた。
それは、かつて暴走した魔法の“痕”。
誰にも気づかれない静かな震えが、次なる試練の序章を告げていた。