表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/26

第20話:英雄は剣に微笑まない(後半)

《大試練祭》の余韻が残る中、学院最強・カインとのエキシビションマッチが始まる。

リオとミナが挑むのは、ただの実力差ではない。“痛み”を背負った剣だった――

空気が張り詰める。

カインの剣が、静かに構えを変えた。


それは、学院で誰も見たことのない“本気の構え”だった。


リオは剣を握り直す。

ミナは魔力を再構築しながら、ルゥナに呼びかける。


「お願い……もう一度、守って」


ルゥナが火光を纏い、翼を広げる。

風が巻き、空気が震える。


だが――


カインの剣が、空を裂いた。


一閃。

風を断ち、火を沈め、空間ごと押し潰すような圧。


リオが防御に入るが、間に合わない。

その剣は、彼の魔力の芯を狙っていた。


その瞬間――


ルゥナが、リオの前に飛び出した。


「ルゥナ!!」


炎の尾が揺れ、風が軋む。

剣が、ルゥナの翼を裂いた。


火光が散り、風が乱れ、ルゥナが地面に叩きつけられる。


「ルゥナ……っ!」


ミナが駆け寄る。

リオが剣を捨てて、ルゥナの元へ走る。


カインは、剣を構えたまま、動けなかった。


その瞳が、震えていた。


「……俺は……」


剣を見つめる。

その刃に映るのは、兄の影ではなかった。


傷ついた幻獣。

泣き叫ぶ少女。

そして、剣を捨てた少年。


「……違う。これは、違う」


カインは剣を下ろした。

そして、静かに言った。


「すまなかった......試合は終わりだ。」



鐘が鳴る。

観客席が静まり返る。


誰もが、言葉を失っていた。


学院最強の剣士が、自ら“負け”を宣言した。

その理由は、誰にも分からなかった。

けれど――その剣が、痛みを抱えていたことだけは、誰もが感じていた。



カインは、剣を納める。

リオに背を向けながら、ぽつりと呟いた。


「……ごめん。君にじゃない。誰かにでもない。

ただ、俺の中にあるものに……ごめん」


リオは、何も言わなかった。

ただ、ルゥナを抱えるミナの背に手を添えた。


「……ありがとう、ルゥナ。守ってくれて」


ルゥナは、かすかに火光を灯した。

その光は、痛みの中でも、優しかった。



空は、夕焼けに染まっていた。

《大試練祭》――その終わりは、静かに訪れた。


そして、誰もが知った。

英雄は、剣に微笑まない。

その剣は、痛みを抱えていたから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ