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第20話:英雄は剣に微笑まない(前半)

《大試練祭》の余韻が残る中、学院最強・カインとのエキシビションマッチが始まる。

リオとミナが挑むのは、ただの実力差ではない。“痛み”を背負った剣だった――


《大試練祭》決勝戦が終わり、夕日が戦場を染める。


優勝者の名が告げられ、歓声が広がる中――


学院長が一歩前に出る。


「今年も素晴らしい試合だった。だが、祭の締めにはもう一戦、残っている」


ざわめきが広がる。

その名が告げられた瞬間、空気が変わった。


「前回優勝者――カイン=ヴァルストラ。

学院最強の剣士による、特別試合を行う」


観客席が一斉に沸き立つ。

カインは、学院の象徴。

誰にでも優しく、礼儀正しく、完璧な剣士。


だが――リオは、彼の視線を受けた瞬間、何かが違うと感じた。



試合場に立つカインは、いつも通り穏やかな笑みを浮かべていた。

だがその瞳は、どこか遠くを見ているようだった。


「リオくん。ミナさん。よろしくね。……全力で来ていいよ」


その言葉に、ミナが頷く。

リオは剣を構えながら、カインの足運びを見ていた。


軽い。

無駄がない。

それなのに、どこか“重さ”がある。



試合開始の鐘が鳴る。


リオは初手から踏み込む。

ミナの支援魔法《加速結界・双奏》が展開され、速度を上げる。


「行くよ、ミナ!」

「任せて!」


ルミナブレードが光を纏い、リオの一閃がカインへと迫る――


だが、カインは剣を抜かない。

そのまま、魔力の圧だけでリオの剣を逸らした。


「っ……!」


空気が、押し返された。

剣が弾かれたのではない。

“空間そのもの”が拒絶したような感覚。


ミナが支援魔法を重ねるが、カインは一歩も動かず、魔力の流れだけで術式を崩す。


「魔法の軌道が……読まれてる!?」


リオは再び踏み込み、連撃を放つ。

剣が火光を纏い、ルゥナの風が後押しする。


その一撃――カインの瞳が、わずかに揺れた。


剣の軌道。

魔力の流れ。

それは、かつて暴走した“あの魔法”に似ていた。


兄を失った、あの夜の光。



カインの笑みが、消えた。


次の瞬間――空気が変わる。


カインが剣を抜いた。

その動きは、誰にも見えなかった。


リオの剣が止まる。

ミナの支援魔法が弾かれる。

ルゥナが空中で軌道を乱され、風が裂ける。


観客席がざわつく。


「……え?今の、何?」

「カイン先輩……いつもと違う……」


セラが目を細める。


「……カイン、あなた……何を見てるの?」



試合は、蹂躙へと変わっていく。


リオの剣が届かない。

ミナの魔法が崩される。

ルゥナが空を裂かれ、火が沈む。


カインの剣は、誰にも届かせない。

それは、痛みの行き場を探すような――悲しみの刃だった。


試合場に響くのは、剣の音ではなかった。

風が裂ける音。

魔力が軋む音。

そして、誰もが言葉を失う静寂。


カインの剣は、ただ振るわれているだけではなかった。

一撃ごとに、リオの動きを封じ、ミナの支援魔法を断ち、ルゥナの軌道を狂わせる。


「……これ、試合なの?」


観客席の一角で、誰かが呟いた。


「カイン先輩って、こんなに……冷たい人だったっけ?」


教師陣の間にも、緊張が走る。

魔導科主任が眉をひそめ、術式の流れを見つめながら言う。


「これは……技術じゃない。感情が、剣に乗っている」


セラは静かに立ち上がり、リリィの袖を握る。


「……カイン、あの剣。誰に向けて振ってるの?」


リリィは目を伏せたまま、答えなかった。



リオは、剣を振るうたびに“拒絶”されていた。

カインの剣は、受け止めるのではなく、否定するように動いていた。


ミナが支援魔法を重ねる。


「《加速結界・三重奏》!」


魔力の流れがリオの動きを押し上げる。

ルゥナが風を纏い、火を旋回させて空から突撃する。


「今度こそ……!」


だが――


カインの剣が、空を裂いた。


風が消え、火が沈む。

ルゥナが軌道を外され、地面に落ちかける。


「ルゥナ!」


ミナが叫ぶ。

リオが剣を振るうが、カインは一歩も動かず、魔力の圧だけで剣を止める。


「……どうして、そんな目で俺を見るんですか」


リオの声が、震えていた。


カインは答えない。

ただ、剣を構え直す。


その姿は、学院の英雄ではなかった。

誰かを責めたいわけではない。

でも、どこにも行けない痛みが、剣に流れていた。



観客席の空気が変わる。


「……これ、止めた方がいいんじゃ……」

「リオくん、もう立ってるのがやっとじゃ……」


セラが静かに言う。


「……これは、試合じゃない。

カインは、誰かを斬ってる。――でも、それはリオじゃない」


リリィが小さく呟く。


「……兄、だよね。あの夜の……」


教師陣が動きかける。

だが、学院長が手を上げて制止する。


「まだだ。――彼は、剣を振るっている。

その先に、何かを見つけようとしている」



リオは、剣を構え直す。

ミナは、ルゥナを支えながら魔力を再構築する。


空気が、張り詰めていた。


そして――カインの剣が、再び動く。





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