第19話:共鳴の頂(後半)
「冷たき魔法、熱き想い。
霜と炎が交錯する決勝戦――
剣と幻獣が響き合うその瞬間、空さえ震えた。」
霜が裂け、氷が軋む。
風を纏ったルゥナの爆風が、冷結の世界へと軌道を穿った。
「今なら……届く!!」
ミナの瞳が揺れる。
その奥からあふれた魔力が、感情と混ざり合い、
まるで脈を打つようにルゥナへと伝わった。
白銀の翼が、低く唸った。
ルゥナの背から風が走り、地面を擦るように霧を巻き上げながら上昇する。
尾の火光が渦を描き、空気を巻き込みながら炎が旋回――
「《火流旋・解放》!」
爆風が起こる。
炎が霜の層に衝突し、冷気と熱気がぶつかり、空間そのものが震えた。
セラの《氷結結界・重奏式》が軋み、魔力の密度に歪みが生じる。
氷の膜が揺れ、霜粒が舞い散り始めた。
その瞬間、セラが再詠唱を開始――
「リリィ、再展――」
「間に合わない!」
霜の術式が軌道を乱し、リリィの指先から放たれた再展陣が爆風で流された。
◇
一方、リオはその一瞬の“空気の隙間”を見逃さなかった。
盾として展開されていたルミナブレードの魔力が収束し、再び剣の形へと変化する。
その光は、霧の粒を纏いながら風と共に剣身を包み――
「《輝刃・疾閃》!」
一条の光が走った。
踏み込みの一歩と同時に、足元の氷層を爆ぜる熱風が押し上げ、
剣が霜の揺らぎを突き破り、セラの結界の中心へと食い込んだ。
氷が砕け、空間に冷気と閃光が混ざり合う。
結界、崩壊。
空気が――止まる。
次の瞬間、
試合終了の鐘が、静かに鳴り響いた。
◇
「勝者、リオ=フレイ&ミナ=クローディア!!!」
観客席の一部が思わず息を呑む。
そして湧きあ上がる歓声。
教師たちは言葉を交わすことなく、ただ頷き合った。
霜と炎。
剣と爆風。
感情と魔法。
すべてが、“共鳴”していた。
◇
セラは静かに立ち上がる。
氷の粒がまだ髪に残るその姿で、リオを見つめた。
「……見事だったわ。風まで纏うなんて、思ってなかった」
リオは剣を納めながら、少し照れた笑みを浮かべる。
「……俺も、想定外だった。でも、ミナがいたから届いた」
ミナが笑顔で拳を突き出す。
「セラ、リリィ。すっごく強かった!」
リリィがふわっと微笑み、拳をそっと合わせる。
「うん。でも、“風は予想外”だったよ。あれはもう、小型幻獣って呼ぶには反則かも」
その言葉に、ルゥナが火光をゆらしながら柔らかく鳴いた。
ミナはその背をなでて、優しく呟いた。
「ありがとう、ルゥナ。……次も一緒に、飛ぼうね」
◇
空は静かに色を変えた。
《大試練祭》――その終わりが近づく。
これから始まる戦いを、羨望するように。
美しい夕日が、静かに輝いていた。
――このあと、優勝者と前回優勝者・カインとのエキシビションマッチ。
試練の幕は、まだ降りない。