第19話:共鳴の頂(前半)
静かで精密な術式の交差、美しいけれど冷たい戦場
《大試《大試練祭》決勝戦
――リオ&ミナ vs セラ&リリィ。剣と支援魔法、氷と霜――
ふたつのペアが、それぞれの信頼を携えて中央に立った。
観客席は静かだった。
その静寂は、まるで試合の空気を先に凍らせていたかのように。
「……始まるね」
ミナが小さく息を吐く。
リオは剣を構えながら、向かいに立つセラを見た。
その瞳は、やはり澄んでいて、冷たい。
「……遠慮はしない。容赦もしない」
セラの声は、氷のように透き通っていた。
「リオくん。ミナちゃん。お手柔らかに――なんて言わないからね」
リリィがふんわり微笑みながらも、魔力を整えている。
その霧はもう、戦場を覆い始めていた。
◇
開幕と同時、空気が冷える。
リリィの《霜霧展開・初段》が静かに広がり、視界と魔力の流れが曇る。
「来るよ、リオ!」
ミナが叫ぶと同時に、
霧の奥から、セラの声が届く。
「《氷槍連打・散弧式》」
霧の中、氷の槍が複数の軌道で襲いかかる。
リオは剣で迎えようとしたが――
霜が足元の結界陣を歪ませ、魔法の反応が遅れる。
「支援がうまく展開できていないっ……防御が、タイミングがズレる!」
ミナが焦りながらも、ルゥナの召喚を展開する。
「お願い、ルゥナ!」
白銀の翼が霧を切り裂いて現れる。
ルゥナが火を纏って一気に空へ跳び上がる。
「焼いて――吹き飛ばして!」
その炎は、霧へ向かって放たれる――が。
「えっ炎が……届かない!?」
リリィの《霜縛・温度収束》が空間全体の熱を吸い上げている。
ルゥナの火撃が拡散せず、空気に圧されて失速する。
ルゥナが咆哮するが、熱の粒子が霜の粒に包まれ、焼き切れない。
そして――セラの第二撃が飛ぶ。
「《氷鎖連段・制動式》」
リオの足元から氷の鎖が浮かび上がり、動きを封じようとする。
「止まるか……!」
リオは剣を一閃――
その瞬間、刃が淡く光り、形を変えた。
「《光盾・展開》」
ルミナブレードの刃が展開し、盾の形へと変化する。
銀白の魔法盾がリリィの霜粒を弾き、セラの氷鎖を叩き割る。
「っ……!」
氷霜のコンビネーションを、剣ではなく盾で受けきった。
「リオ、ナイス!」
けれど、セラはすでに次の詠唱に入っていた。
「《氷結結界・重奏式》」
空間全体が徐々に凍り始め、結界が“移動する冷圧”としてリオを包もうとする。
◇
ミナの指先が震えた。
ルゥナが火を吐けない。
――それだけで、彼女の動きが鈍る。
「やだ……このままじゃ、何もできない……!」
その声に、ルゥナが反応する。
火の粒子が収束し、ルゥナの背から風が鳴る。
翼が広がり、熱と空気が混ざる。
霧が揺れ、空気が震える。
風が生まれる!!
「……風を……纏っている?」
ルゥナが炎の旋回を起こし、爆風となって氷霜の結界にぶつかる。
霜が一部吹き飛び、視界が戻る。
その瞬間――リオの盾が光を纏い、再び剣へと変形する。
反撃の始まりだった。