第1話:魔法が使えない少年
「魔法が使えない僕に、剣は応えてくれた。」
リオの無力感と、初めての《ルミナブレード》発現の衝撃を象徴。
入学式の鐘が鳴り響く。
空に浮かぶ学園都市の中心、白亜の講堂には、数百人の新入生が集まっていた。
「ようこそ、セレスティア魔導学院へ!」
壇上に立つ学院長の声が響く。
リオはその中で、ひときわ緊張した面持ちで立っていた。
(ついに……始まるんだ)
兄が通ったこの学園。
リオにとっては憧れであり、目標であり、そして——試練の場所だった。
入学試験の結果は、最悪だった。
魔力量は高いと判定されたものの、どんな魔法も一度も発動できなかったのだ。
「魔法が使えないのに、どうしてここに?」
そう言ったのは、魔導科の首席入学生、セラ・アルヴィナだった。
銀髪に氷のような瞳。完璧な魔法制御と冷静な判断力。
まさに“天才”と呼ぶにふさわしい少女だった。
リオは言葉に詰まり、ただ俯くしかなかった。
「……俺だって、やれるはずなんだ」
その言葉は、誰にも届かなかった。
◇
数日後、リオは「特殊科」に配属された。
そこは、魔法の適性が不明な者や、異能持ち、落ちこぼれが集められるクラスだった。
「おい、また魔法失敗かよ」
「魔力だけあっても意味ねーんだよな」
訓練場では、他の生徒たちの視線が冷たかった。
リオは黙々と、魔力の制御訓練を繰り返していた。
(魔法が使えないなら、せめて魔力を……)
彼にできるのは、魔力を圧縮して魔力回復薬を作ることだけ。
それは誰にも評価されない、地味な特技だった。
けれど、リオは諦めなかった。
毎朝早く訓練場に立ち、魔力を瓶に詰めては、ひとりで実験を繰り返していた。
◇
そんなある日、声をかけてきたのは、召喚科の少女だった。
「リオ! やっぱりあなただったんだ!」
元気な声と共に駆け寄ってきたのは、ミナ・クローディア。
リオの幼なじみで、幻獣「ルゥナ」と共に学園に通っている。
「久しぶりだね、ミナ」
「うん! でも、なんで特殊科なの? リオ、魔力量すごいって昔から——」
「……魔法が、使えないんだ」
その言葉に、ミナは一瞬だけ驚いた顔をした。
けれど、すぐに笑って言った。
「そっか。でも、リオはリオだよ。あたし、信じてるから!」
その言葉に、リオの胸が少しだけ軽くなった。
◇
そして、事件は起きた。
魔導科・剣技科・特殊科の合同実技訓練。
リオは見学扱いで、訓練場の隅に立っていた。
そのとき、訓練場の結界が破られ、暴走魔獣が乱入する。
「きゃあああああっ!!」
生徒たちは逃げ惑い、教官も対応に追われる。
そして——セラが、魔獣の前に立っていた。
「……動けない……魔力が……っ」
魔獣の爪が振り下ろされる。
誰もが目を逸らしたその瞬間、リオの足が動いた。
「やめろおおおおおおお!!」
叫びと共に、リオの手が光に包まれる。
空間が震え、右手に“剣”が現れた。
それは、魔力が結晶化したような、透明な光の刃——《ルミナブレード》。
リオは剣を振るい、魔獣の攻撃を防いだ。
火花が散り、衝撃が走る。
「……これが……俺の……魔法……?」
セラは、リオを見つめていた。
氷のように冷たかったその瞳に、ほんの一瞬だけ、揺らぎが生まれた。
それが何なのか、彼女自身にもまだわからなかった。