第18話:傲慢なる金の檻
ついに準決勝!
《大試練祭》準決勝・第2試合。
リオ&ミナ vs 名門貴族ペア――ヴェイル=グランドール&マルシェ=トランベール。
豪奢な装備に身を包んだふたりが、戦場へと悠然と歩み出る。
「特殊科の連携だって? ふん……見世物にはちょうどいいか」
前衛のヴェイルがリオを嘲るように笑う。
「この剣、魔導具で五重強化済み。君の光るおもちゃじゃ届かないよ」
「だいたい、“支援魔法で守る女”って哀れよね」
マルシェは背後に浮かぶ従属型精霊を撫でながら、ミナに目を向ける。
「この子の方が、よっぽど優秀なんだから」
ミナの表情が曇る。
リオは静かに剣を構えて言った。
「……口だけじゃなく、技術でも語ってくれよ。俺たちは、全部で戦う」
「ええ、そうだね――全部“金で揃えた”から、完璧だよ」
試合開始の鐘が鳴る。
◇
試合開始直後、マルシェの精霊が空を滑るように舞い、魔力矢を連続展開。
空間に緑金色の魔力が放射状に広がり、ミナの方向を狙う。
「ルゥナ、お願い!」
ミナの召喚陣が光る。
白銀の霧に包まれた幻獣が地を駆け、空へと飛び出す。
その身は軌道を描き、魔力矢を尾で払いながら滑空。
淡い銀蒼の魔力が、霧のように漂いながら精霊の発射角度を狂わせていく。
「なっ……!」
精霊の魔力が空中でゆらぎ始める。
銀蒼と緑金――二つの魔力がまるで絵の具のように空中で混ざり、虹色の乱流を生み出す。
ルゥナの咆哮が空間を震わせる。
その波に乗って、マルシェの魔導具が一瞬だけ動きを止めた。
「魔導具の制御が……っ、精霊が反応しない……!」
ミナがすぐに魔法を重ねる。
「《干渉結界・交差》!」
空間に光の粒子が舞い、従属精霊の魔力線を分断する。
精霊の動きが止まり、マルシェが焦りの色を浮かべた。
◇
一方その頃、リオは前衛でヴェイルの連撃を受けていた。
五重強化された魔導具から繰り出される剣撃は、速く、重く、硬い。
「どうした、“具現魔法”くん!君の光、消えかけてるよ?」
だがリオは、魔導具の起動テンポ、エネルギー循環、剣の癖――
それらをすでに見抜き始めていた。
「……ミナ、次の一手で崩す」
「うん、今、ルゥナが流れを引き裂いてる――タイミング合わせる!」
ふたりの視線が合った。
次の瞬間――戦場が、彼らの舞台に変わる。
魔導具の軌道が揃いすぎている。
剣の動きに“意志”がない。
リオは、ヴェイルの剣撃の“空洞”を見抜いていた。
「ミナ、テンポを合わせてくれ」
「了解――《加速結界・重奏》!」
足元に展開された魔法陣が、リオの動きを一段上げる。
魔力の流れが空気を裂き、リオは一瞬で間合いを詰めた。
ヴェイルが剣を振るうが――遅い。
「何っ……?」
リオはその剣ごと、ルミナブレードで“斬る”。
武器ではなく、魔導具の魔力線だけを断ち切るような鋭い一閃。
ヴェイルの剣が爆ぜ、光を放って動作を停止した。
その直後、空中では――
「ルゥナ、行って!」
ミナが叫ぶ。
ルゥナが精霊の背後へと回り込む。
空気が揺れるのように歪み、精霊の制御核を覆う。
ルゥナの咆哮が、精霊の魔力を震わせる。
マルシェが慌てて魔導具を再起動するが、魔力が反応しない。
「動いてよ! この子、お願いっ……!」
その叫びは、空に溶けた。
ルゥナの尾が霧を振り払い、精霊を飲み込むように包み込む。
精霊が消失――魔導具から完全に切り離された。
同時にリオが一歩踏み込み――
「ルミナブレード、《輝剣》!」
一条の光が、ヴェイルとマルシェの足元を断ち切る。
魔法陣が弾け、二人の動きが止まった。
試合終了の鐘が、静かに鳴り響く。
◇
「勝者、リオ=フレイ&ミナ=クローディア!」
歓声とざわめきが交差する。
観客席では、教師たちが静かに頷いていた。
「具現魔法と召喚魔法の交差か……想像以上に完成されている」
「これは、“特殊”という言葉ではもう括れんな」
一方、セラが観客席で目を細める。
「……あの剣、やはり“心”が形になってる」
「ふふ、次はセラの氷で真っ向勝負だね?」
「……そうね。崩すには、冷静さと狙いの精度が要る」
◇
控室へと戻ったリオとミナ。
「ねえリオ、今回の勝ち方……ちょっと気持ちよかったでしょ?」
「……正直に言うと、うん。でも、あのふたり……戦い方、なんか寂しかった」
ミナがルゥナに軽く触れ、微笑む。
「ルゥナ、怒ってた気がする。“命の入ってない魔法”って、嫌だったんじゃないかな」
「そうかもな。……俺もそう思った」
ふたりは拳を軽く合わせる。
勝利の喜びと、少しの寂しさが胸に灯っていた。
そして、その手の先にあるのは――決勝戦。