第17話:火照りと余韻
《大試練祭》準々決勝から一夜。
試合の熱は少しずつ胸の奥に沈み、代わりに柔らかな感情が広がっていた。
「この部屋、ちょっと狭いけど……居心地いいかもね」
ミナがケーキの皿を持ちながら、談話室のクッションに飛び込んだ。
寮の共用スペースには、リオ、ミナ、ノア、エリナ――
そして、少しだけ離れた場所にセラとリリィの姿もあった。
「今日は、お疲れさま会ってことで!」
「勝者のためのパーティじゃないのか?」
ノアが軽く言うと、ミナが笑いながら頭を振る。
「違うよ! 頑張ったみんなの打ち上げ!」
リオは苦笑しつつ、静かに頷いた。
試合は激しかった。勝ったけれど、完璧ではなかった。
でも、ミナが隣にいることが――何よりも、嬉しかった。
◇
「……エリナ、大丈夫?」
「うん。悔しいのは悔しいけど、ノアと一緒に戦えてよかったって思えるから」
エリナはスプーンを口に運びながら、笑った。
その横で、ノアが静かに目を伏せる。
「……お前の魔法、本当はもっと凄い。次は、それを引き出す」
「……ありがとう。次は、ちゃんと支えられるようにするね」
ふたりの言葉に、リオは少し目を細めた。
仲間になるって、こういうことなんだと、胸の奥が温かくなった。
◇
そのとき、談話室の入口がすっと開いた。
セラ・アルヴィナとリリィ・ノクターン。
ふたりは一礼してから、小さなテーブルに静かに座った。
ミナが嬉しそうに手を振る。
「セラ、リリィ!来てくれたんだ!」
リリィが微笑む。
「うん。招待されたの初めてだったから、ちょっとドキドキ」
セラは水のグラスを口に運びながら、小さく言った。
「……勝者の視界を確認しておきたかっただけ」
それに対し、ミナが笑って返す。
「なら、次の準決で思いっきりぶつかってね。リオたちを倒しに来ていいよ!」
それを聞いたリオは少しだけ笑ってセラを見た。
彼女は一瞬だけ瞳を細め――そして黙って目をそらした。
「……決勝で、会えるといいわね」
その言葉に、部屋の空気が静かに高まった。
◇
夜更け。談話室を出たあと、リオとミナは中庭のベンチで並んで座った。
「今日……楽しかったね」
「うん。試合より、みんなで笑えたのが、なんか嬉しい」
ミナがそっと手を伸ばして、リオの指先に触れる。
「次も勝とう。リオが隣にいてくれたら、魔法も強くなる気がする」
「俺も……ミナがいると、剣が迷わない」
ふたりの掌が、静かに重なった。