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第16話:交差する想い

観客席のざわめきが、徐々に熱を帯びていく。


《大試練祭》準々決勝――


リオ&ミナ vs ノア&エリナの試合が、まもなく始まろうとしていた。


「……いよいよだね」


ミナがリオの隣で深呼吸する。

その表情には緊張と、ほんの少しの高揚が混ざっていた。


「うん。全力でいこう。……ふたりとも、強いから」

「わかってる。でも、あたしたちだって――負けないよ」


一方、対岸のスタートラインでは、ノアが剣を構え、エリナが静かに目を閉じていた。


「……大丈夫?」

「うん。少しだけ、魔力の流れが不安定だけど……戦える」


ノアは短く頷いた。


「無理はするな。俺が前に出る」

「ありがとう。……でも、私も、守るだけじゃなくて、戦いたいの」


その言葉に、ノアの目がわずかに和らいだ。


そして、鐘の音が鳴る。


――試合、開始。



先に動いたのはノアだった。

鋭い踏み込みとともに、木剣とは思えぬ重みのある斬撃がリオに迫る。


「……来る!」


リオはルミナブレードを構え、正面から受け止めた。

刃と刃がぶつかり合い、空気が震える。

だが、ノアの一撃は想像以上に重く、リオの足が半歩だけ後退する。


「やっぱり、速い……!」


その瞬間、ミナの支援魔法が発動した。

リオの足元に淡い光の陣が浮かび、身体の重心が自然と整う。

魔力の流れが滑らかになり、剣の軌道が安定する。


「ありがとう、ミナ!」

「うん、任せて!」


一方、エリナは後方で詠唱を始めていた。

だが、その魔力の流れはどこか不安定だった。

言葉に詰まり、魔法陣の光が一瞬だけ揺らぐ。


「……っ!」


そのわずかな乱れを、ミナは見逃さなかった。

彼女の指先がふわりと動き、召喚陣が展開される。


「ルゥナ、お願い!」


幻獣ルゥナが地を駆け、エリナの足元に飛び込む。

その動きは攻撃ではなく、ほんの一瞬、バランスを崩させるだけの牽制。

だが、それで十分だった。


「エリナ!」


ノアがすぐにカバーに入る。

剣を振るい、ルゥナを退けると同時に、エリナの前に立ちはだかる。

だが、その動きは明らかに“守り”に回ったものだった。


連携が、一瞬だけ乱れる。


リオはその隙を見逃さなかった。

ルミナブレードに魔力を集中させ、踏み込む。


「……今だ!」


ノアが剣を構え直すが、体勢がわずかに崩れている。

リオの斬撃がノアの防御を押し返し、バランスを奪う。


その瞬間、ミナの魔法が重なる。

光の矢が空中から降り注ぎ、ノアとエリナの間に着弾。


爆ぜる光。

そして――


試合終了の鐘が、静かに鳴り響いた。


勝者、リオ&ミナ。



静まり返る会場。

リオは剣を下ろし、荒い息を吐いた。

その手はまだ震えていた。

勝った――けれど、胸の奥には言葉にできないざわつきが残っていた。


ノアはゆっくりと立ち上がり、リオに手を差し出す。


「……おめでとう」

「……ぁあ、お前が毎日付き合ってくれたからな。」


ふたりの手が、しっかりと握られる。


エリナは静かに頭を下げた。


「……ごめん、足を引っ張った」


だが、ノアがすぐに言葉を返す。


「違う。お前がいたから、ここまで来られた」


ミナも、そっと言葉を添える。


「でも……もしエリナが本調子だったら、きっと結果は違ってたと思う」


エリナは驚いたように顔を上げ、そして小さく笑った。


「……そうだといいな。でも、今は――悔しい」

「その悔しさ、次にぶつけてよ。あたしも、もっと強くなるから」


ふたりの少女が、静かに手を取り合う。

そこにあったのは、勝者と敗者ではなく、

“同じ場所を目指す者”としての敬意だった。



その夜、リオはひとり、訓練場のベンチに座っていた。

勝ったはずなのに、胸の奥が少しだけざわついていた。


そこに、ノアが現れる。

「……お前、強くなったな」

「お前も。……でも、まだまだだよ」


ふたりは並んで座り、夜空を見上げた。


交差した想いは、まだ終わらない。

けれど、確かに――前に進んでいた。

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