第13話:静かなる解放
感情を乱す檻に囚われ、心の奥に潜む恐れと後悔がふたりを蝕む。
だが、想いが剣に宿るとき、光は闇を裂く。
共鳴する魔力、重なる意志――
ふたりの剣が檻を断ち、信頼という名の絆が芽吹く。
魔力の檻が空間を満たしていた。
それはただの結界ではない。
感情を乱し、心の奥に潜むものを引きずり出す――
“共鳴封鎖陣”、感情魔法を逆手に取った精神干渉の檻。
リオは、胸の奥がざわつくのを感じていた。
かつて魔力の暴走で兄を傷つけた記憶。
誰かを傷つけた記憶。
自分の魔法が、また誰かを傷つけるかもしれないという恐れ。
一方、ノアの目には、過去の幻影が映っていた。
剣を振るう自分。
守れなかったエリナの笑顔が、遠ざかっていく。
「……やめろ……俺は……!」
ノアが膝をつく。
剣を握る手が震えていた。
リオもまた、視界が揺らいでいた。
だが、そのとき――
胸の奥で、何かが灯った。
――守りたい。
ノアの……そして、自分自身の想いを。
今までにない魔力の昂り。この力なら――
リオは、ルミナスソードに魔力を集中させた。
剣が淡く、そして確かに輝き始める。
その静かで優しい光に触れ、リオの感情は落ち着きを取り戻していく。
「ノア……目を覚ませ!」
その声が、檻の中に響いた。
光がノアの感情を正常に戻し、彼の目に現実が戻ってくる。
「……お前……」
「俺は、誰かを守るために魔法を使う。お前の剣も、俺の魔法も、同じだろ?」
ノアはゆっくりと立ち上がる。
剣を構え、リオに頷いた。
「……ああ。今なら、背中を預けられる」
ふたりの魔力が重なり合う。
剣が共鳴し、檻の魔力が軋む。
「いくぞ!」
「――ああ!」
ルミナスソードが輝きを放ち、
ノアの魔法によって生み出された水晶の剣がその光を導くように振るわれる。
感情を乱す檻が、音を立てて崩れ落ちた。
静寂の中、ふたりは駆け寄る。
エリナはまだ意識を取り戻していなかったが、
その呼吸は穏やかだった。
「……無事だ」
ノアが小さく息を吐く。
「帰ろう。みんなで」
リオの言葉に、ノアは頷いた。
地上に戻る途中、ふたりはふと足を止めた。
崩れた魔導具の破片に、見慣れぬ紋章が刻まれていた。
「……これは?」
「わからない。でも、偶然じゃないな」
ふたりはそれ以上言葉を交わさず、
ただ静かに、エリナを抱え歩き出した。