第10話:揺らぎの講義-試合翌日の講義-
試合の余韻が残る教室で、ふたりの生徒が語るのは、わずかな違和感。 そして始まる感情魔法の講義
昼下がりの教室。
窓の外では風が枝を揺らし、淡い光が机の上に落ちていた。
「昨日の試合、見た?」
リリィが小声で問いかけると、隣のセラは頷いた。
「見た。……剣が変わった。けど、あれは彼の意志じゃない気がする」
セラの声は静かだったが、確信めいていた。
「ミナの幻獣も、ちょっと乱れてたよね。 でも、最後は落ち着いてた。……何かあったのかな」
リリィの言葉に、セラは答えず、前を向いた。
そのとき、教室の扉が開き、教師が入ってきた。
「さて、今日は“感情魔法”について扱う。 この学院でも扱う者は少ないが、近年注目されている分野だ」
教師の声に、生徒たちがざわつく。
「感情魔法は、感情を媒介にして魔力を増幅させる技術だ。 怒り、悲しみ、喜び――強い感情ほど、魔力は大きくなる」
黒板に魔法陣の図が描かれていく。
「だが、制御は難しい。 感情が暴走すれば、魔法も暴走する。 そして他者の感情が混ざった場合、 魔法は本来の形を保てなくなることがある」
教室が静まり返る。
誰かが息を呑む音が聞こえた。
教師は淡々と続ける。
「感情魔法は、強力だ。だが、それゆえに危うい。 使い手の精神状態が、そのまま魔法の質を左右する」
セラは前の席をちらりと見た。
そこに座るリオの背中は、まっすぐだった。
何も言わず、何も動かず。
ただ、静かに講義を聞いているように見えた。
授業が終わり、ざわめきが戻る。
「……でも、あのふたり、なんか強いよね」
リリィがぽつりと呟く。
セラは少しだけ間を置いて、答えた。
「……そうだね」
その声には、肯定とも、否定ともつかない響きがあった。