第9話:静かなる火種
試合の余韻が残る夕暮れ、リオとミナは確かな手応えを感じていた。 だが、控室前の廊下で待っていたのは、無言の剣士と微笑む魔導士。
放課後の訓練場。
夕陽が差し込む中、リオとミナは軽く剣と魔法の連携を確認していた。
「ルゥナ、右から旋回して!」
ミナの声に応じて、銀青の幻獣が空を舞う。
その動きは、試合のときよりもずっと滑らかだった。
「よし、今のタイミングなら……!」
リオが剣を振るい、幻獣の軌道と魔法の火球がぴたりと重なる。
ふたりは顔を見合わせ、自然と笑みを交わした。
「なんか、ちゃんと噛み合ってきた気がするね」
「うん。……今なら、どんな相手でもいけそうな気がする」
控室を出た廊下には、まだ試合のざわめきが微かに残っていた。
夕暮れの光が差し込む中、ふたりの影が立っていた。
ノア=ヴァルディアと、エリナ=シェルヴァ。
初戦の控室で一度すれ違ったふたり。
だが、こうして正面から向き合うのは、これが初めてだった。
ノアは無言でリオを見つめ、やがて静かに言った。
「感情で魔法を使うなら、いずれ誰かを傷つける……」
その言葉は、冷たくもなく、熱を帯びてもいなかった。
ただ、事実だけを突きつけるような声音だった。
リオは一瞬だけ目を細めたが、視線を逸らさずに答えた。
「それでも、俺は想いを込めて使いたい。 誰かを守るために、振るう魔法だから」
ノアは何も言わず、ただその場を通り過ぎていった。
エリナがふわりと微笑み、ミナの方を見て言う。
「あなたの魔法、ちょっと変わってるね。 誰かの気持ちが混ざってるみたい。
……それって、素敵だけど、怖くもあるよ」
その言葉に、ミナは一瞬だけ息を呑んだ。
ルゥナが、ミナの肩で羽ばたきを止める。
ほんの一瞬。けれど、その静止は確かにあった。
ノアとエリナの姿が廊下の奥に消えていく。
残されたふたりは、しばらく無言だった。
「……気にしなくていいよ。私たちは、ちゃんと通じ合ってる」
ミナがそう言うと、リオは小さく頷いた。