表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Genesis of Deicide  作者: キキ
第一章 語られぬ者たちの序列/Lexical-Hierarchy
9/60

監視される語り手

「理はお前の存在を定義できない。

なら、お前は“記述不能の神話”に成り得るということだ」


任務から三日後。

構文異常階層《404》での暴走構文体との交戦――あれが“演習”の名を持っていたとは、未だにナオ=ミカドには思えなかった。

レポートは提出された。演算装置は沈黙した。

だが、ナオの中ではあの声が、あの“存在”が、明確に揺れていた。


『力を使ったのは僕。でも、反応したのは――君の“生きたい”という意志だった』


特別演習クラスの空気にも、微細な変化があった。

イーリスは相変わらず表情を崩さないが、食堂でナオと“席を並べる”ようになった。

ミールはナオを見るたびに小さく笑う。まるで昔から知っているかのように。

そして、教官のレイザ=クラウスはある日、彼だけにこう告げる。


「“あいつが再び語れば、記述法そのものが崩壊する”

……理文省がそう書類に記した。“再び”――な。意味がわかるか?」


ナオは答えられなかった。

ただ、言葉の奥にうっすらと“既視感のような怯え”が滲むのを感じていた。





その日の放課後、研究棟の旧視察室に呼び出されたナオは、

そこで一人の人物と出会う。

長衣を纏い、眼鏡越しに構文映像を映すその女性は静かに名乗った。


「マリエル・フロウ。理文省・特異存在観測局より派遣されました」


「……観測、って……俺はまだ何も……」


「“まだ”じゃありません。すでに一度、世界を書き換えかけました。

あなたが覚えていなくても、構文は“反応してしまった”」


彼女はナオの過去演算記録を開きながら続ける。


「あなたの構文波形は“階層反転”に近い。演算履歴すら記述を拒む。


要するに――あなたは“語られること”に適応していない」


そのとき、ナオの背後でパネルがノイズを上げた。

映し出されたのは、構文塔の記録……通常なら消去されたはずの映像。

そこに一瞬だけ映っていた。“彼”――

イドの笑み。語られる前の発動。

世界が戸惑い、理が揺らぎ、言葉が壊れていく過程。


「“彼”は、あなたの中にいます。人格か、構文か、それとも過去か。

だが確実に、“語る側”の残響が、あなたという容器の中で再構成を始めている」


ナオの心臓が、高鳴った。




その夜。ナオは“夢”の中でイドに問いかけた。


「なあ……本当に、お前は俺なのか? それとも、“誰か”の記憶か?」


『さあね。でも一つだけ言えるのは、

君が“僕を閉じ込めている”わけじゃない。

僕がここにいるのは、“君が生き延びるため”だった』


「……俺に、“何をさせたい”?」


『まだ答えなくていい。ただ、気づいてくれればいい。

君がこの世界に在るだけで、構文は不安定化していくってことを』






そして翌日。

ナオの端末に一通の“制限通知”が届いていた。


【構文制御試験・一時凍結】

【演習範囲:限定階層のみ許可】

【備考:特異存在による“演算干渉域”拡大の恐れあり】


ナオの世界は静かに“囲い込まれ”始めていた。

語り手になるか、沈黙を強いられるか。


そしてイドは、夜ごと囁き続ける。


『語らなきゃ、“誰か”に語られるだけだよ、ナオ』

最後まで読んでくださりありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ