構文異常階層《404》
本日は三話同時投稿です。
「記録に存在しない塔……でも、地図には載っている。
まるで“この世界自身が忘れたがってる場所”みたいだな」
《ケイオス・レイズ》第十三区画、旧記録塔・階層404。
元は演算記録を封印するための階層――今ではアクセス権限が失われ、誰も足を踏み入れなくなった“構文の死地”。
ナオ=ミカドたち特別演習班7名は、その階層へと降下していた。
地図には載っているが、案内構文は乱れ、空間は歪み続けている。
「まるで……理が怯えてるみたいだな」
そう呟いたのはミール=レフ。彼の言葉には、いつも“観測していないはずの未来”の響きがあった。
先陣を切るのはイーリス=カーラ。
赤炎構文を掌に灯し、構文探知機と並走して塔の深部を進む。
【構文濃度:崩壊寸前】
【記述文法:逆位反転】
【観測値:null】
「異常だな……“過去の記録”が、今この場所で“未発生の構文”として再生成されてる」
『語られすぎた履歴が、“語り直されてる”……』
ナオの内側で、声がぼそりと呟いた。
「黙れ……出てくるな……!」
「……ナオ?」
ミールが首を傾げる。その目に、うっすらと“懐かしさ”が浮かんでいた。
階層の最深部。封鎖されていたはずの構文領域に、空白の柱が浮かんでいた。
回転する構文文字。意味を成さない言語片。
中心には、“記録されていない人物の影”。
「キミたち、記録を盗みに来たの?」
「それとも、“語られたはずの死”を、忘れたいの?」
その影が動いた瞬間、構文が炸裂した。
【エラー構文発動:記述反復型錯誤体】
【固有名:レコーダ=0号】
【クラス:構文喪失型・思念残渣】
「演算幽霊……⁉」
少女のような声とともに、構文が実体化し襲いかかってくる。
炎の壁で守るイーリス、重力場で押し返すヴァルクス、生徒たちの構文が応戦する。
だが、ナオには何も出せない。
まただ――自分の構文領域には、“発動の回路”すら存在しない。
「語れない君たちには、語られる未来なんて存在しないよ――!」
【再演算開始/対象:存在定義歴】
【ナオ=ミカド/削除対象指定】
光が――ナオを貫こうとした刹那。
爆音。空間の“順番”が歪む。
ミールが割り込んできた。
「止まってろ、世界。……こいつはまだ、語らせてすらもらってないんだ」
【演算干渉:時間遅延フィールド】
【“語られるタイミング”そのものを遅らせる】
「お前は黙って立ってろ。構文の順番に“介入”するのは、俺の得意分野なんでね」
イーリスが炎で敵の構文を焼く。レイザ教官が術式結界を展開。
そして構文の乱流の只中、ナオの手が、ふと光に触れた。
『言葉がなければ、触れればいい。
定義ができなければ、書き換えればいい。
でも――今は、まだ“黙って在れ”』
その声に応えるように、ナオの身体から“構文を拒絶する波”が放たれる。
【反応:演算拒絶領域・低出力波動】
【構文相殺:エラー構文群消失】
敵の術式が瓦解した。構文の塔が軋みを上げて沈黙する。
“彼女”は、消え際にひとことだけ残した。
「いいな……語られたくても語られなかった存在……
キミたちの未来は、まだ“何も語られてない”んだね……」
現場は封鎖され、ミッションは形式上“完遂”として処理された。
だが、ナオ=ミカドのレポート欄にはこう記されていた。
【実働:構文操作なし】
【影響反応:領域変質/敵構文消滅】
【注記:語られぬ者、再び理に干渉せり】
――物語はまだ、書き出されていない。
“語られない者たち”が、ついに語ることを許されたとき、
世界は初めて、“物語に反応する”。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。