選ばれざる選抜者たち
「このクラスにいるのは、選ばれた者じゃない。
理にとって“排除しきれなかった者”だけだ」
《ケイオス・レイズ》第七訓練塔・構文帯特別演習室。
通常の教室とは隔絶された空間に、7人の生徒が集められていた。
その全員が――“異常”を持つ。
構文誤差。記録不整。属性未定義。名前の失われた者。
そしてその中心に、ナオ=ミカドの姿があった。
「紹介は不要だろう。全員、ここにいる理由は似たようなものだ」
そう告げたのは、担任を名乗った女性教官。
その名はレイザ=クラウス。元・構文戦闘官。今は“理文省の落ちこぼれ管理”を任された異端者。
「ここは“理に矛盾を与えた連中”が集う隔離班。
でも――だからこそ、お前たちの中から『理を語り直す者』が出る可能性がある」
周囲の生徒たちの視線は、ナオに集中していた。
無言、無関心、警戒。そしてごく一部の“羨望”。
(俺だけじゃない……? ここにも、似た奴がいる――)
だが彼はまだ、自分の中に“もう一人”が眠っていることを明確には語れないままだった。
初日の演習は“観測試験”だった。
一人ずつ、存在演算装置に接続される。
「理文構文による自我の再定義」が試されるのだ。
「では、ナオ=ミカド。接続を試みる」
演算装置が起動する。
構文輪が彼の周囲に浮かび、空間に青い文字列が滲んだ。
が――
【ERROR】
【存在同期失敗】
【記録階層:破損】
【反応:——“上書きされている”】
「っ……なに? これは――!」
構文輪が歪み、空間が一瞬だけ黒く染まる。
その内側に、誰かの“瞳”が浮かんだような錯覚。
『……見られてるよ、ナオ。
君の“後ろ側”にいる僕のこと、みんな感じ始めてる』
ナオは振り払うように一歩後退した。
「俺は……っ、知らない……あんたなんか……っ!」
だが演算機はさらに警告を発する。
【副存在構文:反応確認】
【コード名:未定義/位階異常】
【推定分類:対構文存在】
演習を終えた後、ナオは部屋に戻ろうとしたが、
すれ違いざま、一人の少女が言葉をかけてきた。
「――燃えてたよ」
その少女は、赤い髪に黒曜石の瞳。
名をイーリス=カーラという。異能コード:焔装使い(エンプレス・コード)
“火”を演算構文から実体化させる術を使う、構文実体派の中でも特異な一人だった。
「私、あんたが何したか知らない。でも“燃える気配”はわかる。
あれは、構文の揺れじゃない。“神性”の匂いがした」
ナオは答えなかった。ただ――胸の奥に微かに熱があった。
その夜。
再び夢の中で、ナオは対話していた。あの“語り手”と。
『君を無理に引きずったりはしない。
でも、遅かれ早かれ、君は僕を選ばなきゃいけなくなる』
『この世界に、君自身の“語彙”を持って語るにはね』
ナオは問い返す。
「なあ……お前は誰なんだ。“俺”なのか?」
少しだけ間が空いて、やがて返答があった。
『それは……君が“語ったとき”、初めて決まるんだよ』
朝。
特別演習室の端末に新たなミッションが届いていた。
【異常構文発生地点:旧記録塔・階層404】
【班全員による“構文封鎖任務”を実施】
【備考:ナオ=ミカドを班の“核心観測対象”に指定】
――構文が揺らぐとき、“語る側”と“語られる側”は境界を失い始める。
次の試練は、演出ではなく、“定義との直面”だった。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
次回から投稿時刻を早めようと思います
21:00→17:00
次回もよろしくお願いします。




