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Genesis of Deicide  作者: キキ
第一章 語られぬ者たちの序列/Lexical-Hierarchy
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虚構の目撃者たち

「記録に残らない“現象”が、世界を揺らした――」


その日、《ケイオス・レイズ》は静かにざわついていた。

中枢塔(エクス=レクス)で発生した“構文帯崩壊事故”は、

演算構文官の誰もが――口に出せないほど恐れていた。


【公式記録:破損】

【観測映像:欠損】

【演算軌跡:存在せず】


だがそれでも、“その存在”を見たという者がいた。


「コード未登録の少年が、空間を破壊したらしい」

「いや、逆だ。存在の方が世界を書き換えたって話だ」

「てか、名前すら記録されてねえ。記憶なのか、夢なのかすら曖昧……」


それは“噂”のかたちを取りながら、確かに拡がっていた。


一方その頃――

当のナオ=ミカド本人は、部屋のベッドで目を覚ましていた。


天井の光は変わらず淡く、身体には重さが残る。


(あれ……また、途中で意識が……)


思い出せない。試験に向かい、演算空間に入ったまでは覚えている。

でもその先にあるはずの記録が、思考から“滑り落ちて”いく。


ベッドサイドの端末には、通知が一通。


【再定義試験:終了処理済】

【結果:定義未完/特異構文対象】

【行動制限解除:学園生活への復帰を認可】


「――は?」


自分は、何も……してない。

なのに、なぜ“処理されなかった”?


なぜここにいる? なぜこの部屋で目覚めた?


学校に戻れば、“空気”は明確に変わっていた。


誰もがナオを避けて歩きながらも、時おり視線だけは刺してくる。

無関心でも敵意でもなく――あれは、()()だ。


「……こいつがそうらしい。塔を壊したって噂の」

「視界に入れた演算官が発狂したって……ホント?」


ナオは黙って廊下を歩いた。全ての靴音が浮いて聞こえる。

世界が、自分を“語らないようにしてる”のが、わかった。


ある日、授業の終了後。

ひとりの少年が声をかけてきた。


「よう。“存在記録からは削除されたはずの人間”って、君か?」


少年の名はミール=レフ・ヴァイス。

コード名:時制錯誤者(タイムオーバーライタ)候補

生徒でありながら理文省からも監視される“危険観測対象”だった。


「君の中には“語られる側じゃないもの”がいる。……自覚、ある?」


ナオは答えられなかった。けど、身体のどこかが反応していた。


「安心しな。俺も少し似てるから」


ミールの笑みは、“時間”を知っている者のそれだった。



ナオはその夜、夢を見た。

否――それは夢というにはあまりに“情報が濃かった”。


歪んだ演算柱。記録から抜け落ちた文字。

そして、立っていた。“自分でない自分”が。


『君が拒んでも、いずれ僕はもっと前に出るよ』

『君は、“語られなかった少年”で、僕は“語られすぎた神”だ』

『……いずれ、重なる。その時が来たら、君が“語って”くれ』


目が覚めたとき、ナオの手のひらには、焦げついた“記述”が浮かんでいた。


【Code:Null=Narrator】

【副定義:語られざる構文】




翌朝。

コード官からの呼び出しが届く。

だが、それは処罰でも尋問でもなく――


【特別演習クラス:構文異常対処班(仮称)に選抜された】

【理由:君自身が“最大の異常構文”であるため】


――ここに、“理外の存在”が正式に記録へと歩み出す。

世界はまだ知らない。


語られる者が、いずれ語る側になることを。


最後まで読んでくださりありがとうございます。

作品の文字数はこれくらいで進めていく予定です。

次回もよろしくお願いします。

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