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Genesis of Deicide  作者: キキ
第一章 語られぬ者たちの序列/Lexical-Hierarchy
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語るもの、目覚めよ

「……俺は、誰なんだよ。

こんなにも必死なのに……何も、証明できねぇ……!」


《エクス=レクス》――中央演習塔。

この世界で“存在の正当性”を測る場所に、ナオ=ミカドは一人立たされていた。


「定義コード未所持、構文適応ゼロ……存在階層、未満。

再定義試験の実施を認可する。――処理班、展開」


無感情な声と共に、空間が軋む。


虚空から現れたのは、全身を重装の神性演算鎧で覆った一人の男。

コード名:ゼス=シェイド。理鎮圧官、つまり“存在異常者”の即時処理専門部隊の実行者だった。


「貴様の存在は理の網にかからず、記録にも記述にも残らない。

“語られていない存在”は、世界に不要――よって排除する」


ナオは一歩下がった。喉が焼け付くほど乾く。

逃げ場は、どこにもなかった。


「待っ……俺は、ただ、“ここにいたい”だけで……!」


ドン、と音を置くように、シェイドの足が動いた。

風圧が時間を巻き込み、視界がぐらつく。


ナオは身構えたが、反応より先に拳が来た。

──意識が、途切れる。


闇。

身体の感覚が消える中、どこか遠くで揺れている“視点”だけが残る。


そして、聞こえる。

どこでもなく、心の奥底から、

それでいて“心”とは異なる何かから。


『ここまでよく粘ったね。もう、休んでいいよ。

さあ――ここからは、僕が“語ってあげよう”』


次の瞬間、空間が“止まった”。


いや、止まったようにしか見えないほど、全てが遅くなった。


シェイドの再起動構文が起動する前に、演算帯が裂ける。

音もなく、意味だけが崩れるように。


「っ……何……この、重圧……⁉」


目の前に立っていたのは、さっきまで無力だった少年ではない。

血に濡れた制服、崩れかけた構文盤の中心。

それでも姿勢は静かで、ただ――

その瞳だけが、“世界を語る者”のものだった。


「君たちは、“語られる世界”に生きてる。

でも僕は、“語る側”から来たんだよ」


シェイドの全身装甲が瞬時に演算硬化する。

神性弾をまとった拳が唸りを上げ、突き出される。


だが、その刹那。


『戦闘記述式:語彙先制(Narrate First)』


シェイドの身体が、空中で“止まった”。

凍結ではない。“次に動く”という記述そのものが消された。


『解析完了。記述抹消。君は、ここに描かれていない』


ズンッ。


構文の網が崩れ落ちる音を立てて、

ゼス=シェイドという“語られていた存在”が、消えた。


痕跡も、記録も、再構築も不可能。


演算官たちは遠隔構文視から言葉を失っていた。


「な、何が起きた……? 構文障壁が機能していない……!」

「いや、あれは“読み直された”……まるで彼の言葉が、世界に先行してる……!」


“語っていた”ナオ=ミカド……否、“イド”は構文盤に指を走らせた。

そこに浮かび上がる、世界に属さない記述。


【Code:Null=Narrator】

【定義:語る側】

【副定義:世界、黙って聴け】


それから数分後――

ナオは目を覚ました。

焼けるような頭痛。揺れる視界。

目の前には、崩れかけた試験空間と、誰もいない静寂。


「……あれ……? ……俺、なんで……ここに?」


視界の片隅、構文盤には一言だけ残っていた。


『初稿、終了。次は君が書く番だよ。』


——語られぬ少年に宿る、語り手の声。


世界が定義を与えぬなら、

彼が世界を“語り直す”しかなかった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

次回もよろしくお願いします

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