表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Genesis of Deicide  作者: キキ
第三章 無構文世界/Narrative_Zero
49/60

記録されなかった優しさ/無定義座標の証明

「語られたら、壊れることがある。

語られなかったから、生き延びた感情がある。

それでも――それでも誰かに、“在った”って、知ってほしいと思ってしまったんだよ」


構文国家セリエントの外周記録圏で、ひとつの異常が発生した。

記録照合ユニットが、捕捉不能だったはずの残響を検出。

その波形は語義でも感情でもなく、存在の輪郭すら持っていない、ただの()()()()()()だった。


【解析不能:非語義・非記号圧縮素体】

【既知記録と照合不可/定義域外の記録】

【仮識別名:恩寧子因子/Elythe_Pulse】


構文国家の管理官たちは困惑していた。

言語になっていないため排除対象に指定できず、

記録されていないため干渉ログにも保存できない。

それでいて、接触した者の一部に“原因不明の安心反応”が観測されていた。

それは情報ではなかった。

意味でもなかった。

ただ、“誰かが誰かを思った”という記憶の「余熱」だった。


それがどこから生じたのか――

座標を辿った結果、示された地点はただひとつ。


【座標確定:ゼロアーク内部・非記録層C≠37-Null】

【存在確率軸:97.1%(記録反映対象外)】

→対象:イド=(記録未登録体)残滓共鳴源


構文国家は再定義を始める。

「記録されていない優しさ」を、“記録不能な危険源”と認識し、

その削除を含む“認識再統一”の準備を進め始める。

その情報が――ユン=ファシレルのもとへ届いたのは、

ナオがイドの非波形座標を静かに撫でた、ほんの数分後だった。


ユンは震えた。

怒りではない。

悲しみでもない。

ただ――なぜ、それさえ記録から除かれるのかという問いが、喉元まで来ていた。


「彼は……

誰のことも傷つけなかった。

誰にも“わかってもらえなくていい”って沈んでいったのに……

その優しさすら、なかったことにされるの……?」


ネーヴ=ロストが低く言う。


「……記録されない優しさは、構文世界にとっちゃ“敵”なんだよ。

だって、それは“語られなくても残ったもの”だからな。

語らないことを赦せない社会にとって、それは矛盾そのものなんだ」


コトが叫ぶように言う。


「だったら記録なんて、全部偽物だ!

語られたものばっか残って、

語られなかったやつらの温度を、

どうして“存在しなかったこと”にして平気でいられるんだよ!」


ナオは沈黙のまま、

イドの記憶残響の上に腰を下ろした。

そこに言葉はない。

ただ、イドがかつてここに座って誰かを見つめていたという、光のような圧が残っていた。

そして、ゆっくりと手を広げ、

周囲の空気に触れる。

その瞬間――


【記録外共鳴開始】

【パターン照合不能/反構文圧縮律展開】

【識別名称:構文圏外起動体 → “在ることの祈り”】


構文国家は、

この“定義不能な波形”に対して、

ついに最大級の干渉手段【構文共鳴解体弾】の投下を決定する。

世界は、“語らなかったまま残る優しさ”を――いま、消しに来ている。


だが、ナオの沈黙は、揺れなかった。

彼の隣には、語られなかった過去と、語られなかった未来と、

そして“名を持たずに怒った者”たちがいる。

オル=ラディアスが、小さく呟いた。


「ねえ、語らなかったってことはね――

本当は、“語るよりも深く、その人のことをずっと思ってた”ってことだよ」


――語ることで伝える世界の中で、

語らなかったことを“存在の肯定”としたナオたちの決断。

この静かな座標で、言葉にならない祈りがいま立ち上がる。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

次回もよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ