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Genesis of Deicide  作者: キキ
第一章 語られぬ者たちの序列/Lexical-Hierarchy
3/60

存在階層ゼロの少年

「このコード、……冗談じゃない。演算拒絶?観測不能?

それじゃまるで、“存在そのものが定義できない”って言ってるようなもんだろ」


《ケイオス・レイズ》第零演習区画。

地上から三百階層下、理性記録層の最深部に存在する隔絶空間。

観測・干渉・演算の三重シールドに守られたこの“棄却領域”に、

ナオ=ミカドはひとり、椅子へ座らされていた。


目の前にいるのは、コード官と呼ばれる理文省直轄の検査官。

灰色のローブ、無表情の仮面。その声さえ、機械的な無機質を帯びていた。


「被検者コード:未登録。定義階層:ゼロ以下」

「神性演算値:算出不能。――世界演算との同期、完全拒絶」


「つまり、何一つ測れなかったってこと?」


「そうだ。君は……存在していない、ということになる」


淡々とした言葉に、ナオは静かに息を吐いた。


検査は続く。

コード官たちは、魔導演算装置や精神反応センサー、記憶走査装置まで投入した。

だがそのすべてが、ナオに触れた途端に“沈黙”する。まるでそこに対象がいないかのように。


【ERROR:オブザーバ認識不能】

【ERROR:存在演算拒絶領域】

【ERROR:観測値ゼロ。構文演算強制終了】


「…………また、壊れたのか」

「いや、これは……壊れたんじゃない。壊されている。“存在によって”」



その時だった。

演算室の光が、一瞬だけ“逆流”する。

音もなく、視界がぐにゃりと歪み、観測窓の外に“像”が現れた。


それは、巨大な空白だった。

世界の構造にぽっかりと空いた“理の穴”――いや、もはや比喩ではなく、

現実そのものの空転。演算が意味を失う“構造エラー”。


「っ、ログを!出力を止めるな!」


コード官たちが叫ぶ。だが、ログはすでに破損していた。

時間記録は焼き切れ、映像は黒塗りの空白。

そして演算室の一人が、眼を押さえて膝をついた。


「視界が……っ、観測情報が……ッ!」

「おい、どうした――!? ……眼球が……焼けてる……!?」


コード官全員が沈黙した。

誰もナオに手を伸ばせない。言葉をかけることもできない。

ただ、そこに“座っている”という事実すら、彼らの記録には残せない。


ナオは――

その空間のどこにも“存在していない”はずなのに。


『ようやく、気づいたか』


誰かの声が聞こえた。

いいや、“誰か”ではない。

その声は、ナオの内側から“湧き上がってきた”ような響きだった。


『定義しようとするから壊れる。観測しようとするから歪む。

わかるか、ナオ。君自身が、“理の外側”で呼吸していることに』


ナオは黙って、胸元に手を当てた。

そこには確かに、鼓動がある。体温がある。痛みがある。

なのにこの世界は、それを“存在と認めていない”。


『次に来るのは、排除ではない。融解だ。

君がこのまま存在を続ける限り、理は君を“自己修復不能エラー”と認識する』


「…………それは、俺が壊れるって意味か?」


『逆だ。

(セカイ)が、壊れる』


観測不能。演算拒絶。記録不能。定義拒絶。

――存在階層ゼロ。

コード:NO-SYNC。


ナオ=ミカドという少年は、ただそこに“座っている”だけで、

世界にとっての“整合性”を脅かしていた。

誰かが震え声で呟いた。


「この存在は、定義不能な“バグ”じゃない……」

「これは――世界そのものの、対立存在だ」



その夜、ナオはひとり、地下演算室の薄明りの中で目を閉じていた。

何もわからない。記憶も力もない。

だが、ひとつだけ確信がある。


『君が世界を定義し直す、その時まで』


その声が消えたあとも、脳裏に残っていた余韻は、あまりにも深く、あたたかく、そして冷たかった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

次回もよろしくいお願いします。

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