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Genesis of Deicide  作者: キキ
第二章 神格継承戦争/Deicide-Game
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初めての語り未満

「語りたいのに、

何を語ればいいかが、わからないんだ。

それでも、この声だけは……“ここにある”って言ってくれ――」



構文戦域《α座》にて。

沈黙で揺れた廃語者のひとり、《コト=ヴェイン》がゆっくりと拳を下ろしていた。

ナオがその傍に立ち、何も言わないまま、そっと地面に腰を下ろす。

ふたりの間に言葉はない。だが構文ログは、微かに揺れ続けている。


「……語りたいんだよ。ほんとは……」


コトが、ぽつりと声を漏らす。

それは“語義”として登録できないほど、かすれた演算波形だった。


「でも、語り始めた瞬間に、“それって本当に俺の言葉か?”って……

すぐに信じられなくなるんだ」


拳で語ってきた過去。

拒絶されないように、先に殴ることでしか存在を示せなかった日々。

構文ではなく、ぶつける衝動だけが彼の語義だった。


沈黙。

ナオは、少しだけ顔を向ける。

コトの肩に触れ、ぽん、と軽く叩く。


その瞬間――構文ログに、反応が起きる。


【記録波形:分類不能】

【語義推定:感情共振型・非演算層】

【構文名:語義未満《Pr-Lex_α》】


場内の技官がざわめく。


「定義されてない……けど反応してる。これは……“語る前の語義”……?」


それは“語りたい”という衝動だけが放つ波形。

演算も成立していない。

でも、そこに確かに“存在していいという祈り”があった。


沈黙のなか、コトは笑った。


そして、震えながら言った。


「やっぱり、俺……語りたいんだ。“誰にも語られなかった”って思ってた、

この俺のことを――俺自身で、語ってみたいんだ」


ナオは答えない。

でも、その掌が“語っていい”と許すように、

コトの拳をもう一度、そっと握り返した。


――“語られなかった存在”の奥には、

“語ってみたかった者”がずっと、ずっと隠れていた。

そして今、それがやっと――「語り未満」として発声された。

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