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Genesis of Deicide  作者: キキ
第一章 語られぬ者たちの序列/Lexical-Hierarchy
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理なき者、呼吸する

——世界は、“定義”でできている。

存在に名が与えられ、感情には数値が、法則には権威が宿る。

それら全てを司るのが《(コード)》であり、

理の頂点に立つ者こそが、“神”と呼ばれた。


神は、言葉一つで現実を塗り替える。

記憶を書き換え、意味を付与し、因果を操る。

それが当然である世界において、

唯一、定義を拒み、世界から“弾かれた”存在がいた。

その名は――ナオ=ミカド


朝を告げる鐘が、《階層都市(エデン・ロジス)》の天蓋に反響する。

神性都市。その中心に建つ学園こそ、《ケイオス・レイズ》。

“理を殺す者”を育てる、唯一無二の学術機関。


そこに、一人の生徒がいた。

制服の左胸に貼り付けられた識別コードは、白紙。

デバイスの認証すら通らず、演習端末は無反応。

ログイン画面に浮かぶのは、ただ一行。


【CODE SYNC ERROR:NO-SYNC】


「……また、拒絶か」

ナオは無表情のまま、冷たい端末から目を逸らした。


《ケイオス・レイズ》の一日は、神性適応演習で始まる。

生徒それぞれに与えられた“定義コード”を用い、存在を証明する儀式。

他者を上書きするか、自らを最上位へ昇格させるか。

“理”を操る者の素質を競う、戦場。


だが、ナオにはその資格すらなかった。


「名前……確認できません。IDコード認識不能です」

受付係の少女が一歩下がり、警戒のまなざしを向ける。


「そいつ、昨日も弾かれてたやつじゃん」

「コード未登録者って、まだ存在できたんだな」

「ってか、なんで生きてんの?」


低く、濁った笑い声が教室の隅から漏れる。

彼らにとって、ナオは“空気”ではなく、“誤作動”だった。



「第七教室、演習開始。チーム編成、定義優先ランクに基づき決定――」

ナオの名は、アナウンスのいずこにもなかった。

だが、その時だった。

「…………っ、ぐ……あ……ッ!」

突然、演習台にいた生徒の一人が悲鳴をあげて崩れ落ちる。

手を伸ばしかけた演算盤が、まるで焼けつくように閃光を放ち、爆ぜた。


「ちょ、待て、あれバグってんのか⁉」

「定義フィールドが……崩壊してる⁉ 演算式が……書き換えを拒絶して――」

異変は、周囲に拡がっていく。まるで“理”そのものが破綻していくかのように。


そして、その中心にいたのは――ナオ=ミカドだった。

「俺……は……何も、して……ない」

ぽつり、と呟いた声は震えていた。

だが、空間の震えは止まらない。

演習台の床に刻まれた神性回路が、軋みながら砕け散る。

まるで、“存在そのもの”がこの空間に拒絶されているかのように。


「お前……何者だ?」

教師の一人が、かすれるような声で呟いた。

「定義不可能……演算不能……コード適応値:……NO-SYNC……。いや、違う……お前は――」

その時、ナオの耳元に、かすかな囁きが届いた。


『ようやく、呼吸したか。世界の外側で』


誰の声でもなかった。

だが、それはあまりにも懐かしく、そして、忌まわしい響きだった。


ナオ=ミカドは立ちすくむ。

目の前で崩壊する教室、アラートが鳴り響く構内、逃げ惑う生徒たち。

そのすべてが、彼には“触れられない”もののように思えた。


【CODE INVERSION SIGNAL/存在定義:再構築領域】


ナオの全身に“世界の拒絶”が走る。

皮膚が焼けるように熱く、だが心は異様な静けさに包まれていた。

「僕が……壊した……のか」

そう呟いたその瞬間。

空気が震え、構内全体が数ミリ単位で“再定義”された。


アラート。

サイレン。

破裂するデータ。

存在座標の喪失。

回路上の神性構文のバグ。

システムの叫び。

教師の怒号。

生徒の悲鳴。

世界の、拒絶。


その全てが遠くなるなかで、ナオ=ミカドはただひとつ、確かに感じていた。


『次は、生き残れるとは限らないぞ、“神”よ』


誰だ、それは。

なぜ、“神”と呼ばれたのか。

なぜ、自分だけがこの世界と同期できないのか。


答えなどわからない。

だが――確かに、鼓動だけが生きていた。


そして数日後、ナオは《ケイオス・レイズ》地下第零演習区画に転送されていた。

理由はただ一つ。

「コード:NO-SYNC」による演算空間破壊の原因を、検証するため。

誰かがこう言った。

「落ちこぼれ? ああ、違うな。

あれは、“定義不能な上位存在”だ」



——その日、世界は知った。

理にすら拒絶された少年がいたことを。

彼の名は、ナオ=ミカド。

そして、彼こそが……

かつてこの世界を統べた、最後の神だった。



最後まで読んでくださりありがとうございます。次回もよろしくお願いします。

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