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Genesis of Deicide  作者: キキ
第二章 神格継承戦争/Deicide-Game
19/60

語義の外側で立ち尽くす者たち

「語る資格なんて、最初から持ってない。

でも、語られたくなかった人間が泣いてるなら――俺は、ただ立っていたいんだ」


構文監視層・第三観測塔。

監査官アスラン=ユデルは、演算記録を何度も巻き戻していた。

そこには構文律も術式も記録されない、真っ白な空白。


【戦闘記録:ナオ=ミカド vs セイ=ローザ → データ欠損】

【戦闘記録:ナオ=ミカド vs ダリオ=ヴァント → 部分演算不能】


「これは……演算から漏れてる。

語られなかった者として“構文そのものを無視している”」


助手が震えながら答える。


「けど、それでも戦場は“更新”されているんです。

まるで……沈黙が構文より先に物語を進めてるみたいに」


その頃、ナオは訓練区画の片隅にいた。

自分が“戦ってしまった”ことすら、うまく消化できていない。

拳を下ろすだけで、構文がざわつく。

もう自分の言葉は、“黙っていても構文層に干渉する”ほど異常なのだ。

そこへ、そっと近づいてきたのは――セイだった。


「……あたし、あんたのこと“語られたくない奴”だって思ってたけどさ」


ナオは顔を上げずに訊く。


「違うのか?」


セイは首を振った。


「“語れなかっただけ”の人間に、

初めて“語られたい”って思っちゃったの、あんたが最初だったよ」


その言葉が、ナオの心を打った。

“語られたくなかった過去”が、自分のなかにも確かにあったから。







一方、語義候補リド・ヘムロウが第三区域で暴走する。

構文属性:拡声。

自らの語義を“他者の語りに強制上書き”する特殊干渉。

彼に“語られた者”たちは――自分自身の語りを奪われていく。

苦しむ候補者たち。


だがその中で、ひとりだけ言葉を取り戻せた者がいた。

“ナオに、拳で語られた者”――ダリオだった。


「……俺は、語りたがりだった。

けど今は、語られない拳に“何かをもらった”気がするんだ」


彼が一歩踏み出したとき、《拡声》構文が歪む。

沈黙は語りに勝てないと、誰が決めた。

その瞬間――第三戦域で、沈黙が語りの侵食を押し返した。


構文制御層が再びざわめく。

沈黙の演算干渉が世界記述に影を落とし始めていた。


――語る者が、語らない者に導かれるなら、

そこに初めて“語る資格”が生まれるのかもしれない。

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