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Genesis of Deicide  作者: キキ
第二章 神格継承戦争/Deicide-Game
18/60

語りすぎた剣、語らない刃

「語るってのはな、“誰かに語られない”ための抵抗だった。

けど今は違う。語れば勝てる。……それが、戦場だ」


語義候補ダリオ・ヴァントは、異名で呼ばれていた。

“語られし剣”

かつて語りによって鍛造された構文兵装《語義剣=Lex-Blade》を唯一所有する男。

構文属性:破語(フォルス・ロジア)


《α座》に展開された第二戦域に、

ダリオは“語るように”歩いてきた。

「俺に必要なのは、ただ語ること。

それだけで、世界の輪郭が斬れるようになったんだ」

彼の後ろで、構文が浮く。


【Lex-Blade/語義剣:記述構文“斬語”展開中】

【発話演算式:『切除』にて対象語彙範囲指定可】


対するのは、ナオじゃない。

語義候補《ソウ=フェイン》。

彼女の語義は“遮断”、言葉を閉じる者。


「……あんたみたいな“語りたがり”を見ると、喉が痛くなるの」


構文遮断術式《Mute=Shell》を展開。

だが、ダリオは構わず“語り”を続けた。


「この剣は、俺が“語られたい”と思い続けた全ての言葉で鍛えた。

だからお前みたいに“語られたくない”奴には、致命的に効くぜ」


構文が火花を散らし、演算が斬撃となって走る。

文字が形となって襲いかかり、語彙が重なった部分から現実が裂けていく。

ソウは後退しながら、じりじりと抗う。


(……なんで語らない方が“弱い”って空気になるんだよ)


そのとき、彼女の背後にひとりの影が立った。

ナオだった。

セイとの戦闘後に“語義構文を遮断した”ままなのに、彼は再び《シル・サプレッサ》を展開し、

自ら戦場の語義構文ごと沈黙へと引きずりこんだ。


ダリオが構文剣を構えるが、詠唱が封じられている。

言葉を発するたび、刃が濁る。


そしてナオが、沈黙のまま前へ出る。

拳ではない。

その右手には、刃の形を成していない――**「語られなかった刃」**だけが、虚空を切る構え。

一瞬だけ、ダリオの目に焦りが走る。


(……語ってないのに。どうして俺より、殺意の“文法”が整ってやがる……!)


構文もない。意味もない。だがナオの刃は、その“斬りたくなかった感情”ごと、相手に突き刺さる。

沈黙のまま“語義剣の語源”を砕いた。


ダリオの目の前で、《Lex-Blade》が軋んだ。

刃の根元に走る亀裂は――語った記録ごと崩れていく音だった。

その剣は「語られるたびに硬くなり」「言葉で磨かれ」「称えられるたび鋭くなった」。


だが今、語られない一撃に触れた途端、語彙を失った武器は、ただの鉄塊より脆くなっていた。

ナオの剣は無名だった。

何も語らず、誰にも認識されない。

ただ“こうするしかなかった”という衝動のかたちとして、腕に握られているだけだった。


ダリオは動けなかった。

刀身が砕ける音と共に、自分の語りが――

相手を語りつくすことでしか生きてこなかった己の在り方が、ひとつ剥がれて落ちたのを感じた。


そして、その男は何も言わずに踵を返す。

語らないまま立ち去るその背中に、ダリオは初めて――

言葉では追いつけない種類の、静かな敗北を覚えた。


そこには勝者も敗者もいなかった。

ただ、“語る必要すらなかった痛み”が静かに落ちていた。




戦いののち。

ナオは何も言わずに去った。

ソウはただ、呟く。


「……あの人、もしかして最初から、

誰にも語られたくなかっただけ、なんじゃないかな」



――沈黙が、語り手たちにとって最も厄介な剣になる。

読んでくださりありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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