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Genesis of Deicide  作者: キキ
第二章 神格継承戦争/Deicide-Game
17/60

構文戦域《α座》開帳

「語らなければ、始まらない。

だが語ってしまえば、それはもう“誰かを選ぶ”ことになる――」


開帳儀式は、午前零時をもって始まった。

構文帯が歪み、視覚構造が円柱状にねじれる。

語り手候補たちは“語義空間”と呼ばれる仮想の構文断層に順次転送され、1対1の演算的交差を体験する。


【構文戦域:《α座》開帳】

【参加者:語義候補7名】

【戦域構文演算:相互語義干渉型バトル・ログ】


ナオは最終転送者だった。


そのとき、封印区の外――

監視モニターを睨んでいた構文記録官の一人が、異常に気づく。


「……おい、ナオ=ミカドの語彙構文領域、

“選択されてない”……だと?」


もう一人が蒼白になる。


「いや、“選べてない”……!あいつ自身が――“語らない”まま転送されてる……!」





戦域に落とされたナオは、言葉のない大気のなか、ゆっくりと地面に立った。

目の前には相手――語義候補のひとり、《セイ・ローザ》。

語義:断裁/記録消去。構文攻撃は「相手の語義そのものを上書きして“語られなかった者”にする」。


「……語られる覚悟、できてる?」


セイは手を振っただけで、ナオの周囲に“構文文字の断層”が出現した。

語義再定義術式《Erase/Rewrite》。


「“君は語りすぎた”ってことにしといてあげるよ。

その方が、語られなかった者たちの墓標にもなるしね」


ナオは、語らなかった。

かわりに、目を閉じた。


(語れば、勝てる。だが……)

(俺は、“語る前に震えていた奴”を、俺自身が殺すことになる)


手を下ろし、静かに構文遮断を宣言する。


【発動:構文遮断領域展開式《SIL=SUPPRESSA》】

【効果:双方の発話・構文・語義干渉を一時停止】

【副作用:以後、記録への語義転写不可】


セイが驚きに目を見開く。


「なにそれ、構文切った? ――マジで“語らずにやる”気?」


だがもう言葉は届かない。

《シル・サプレッサ》が展開された。

白の無音領域で、ただ“存在だけが生きている”。

ナオは構えを取らない。

構えるという“意味”すら消えている世界。

ただ、歩み寄る。


拳を一度だけ――振る。

その拳に、言語は宿っていなかった。

けれど、誰よりも真剣な「()()()()()()()()」だった。


ナオの踏み出しは静かだった。

けれどその一歩で、空気が砕けた。

セイが反射的に身体を沈めて構えようとする――が、その瞬間、ナオの膝が疾風のように迫る。

正面から、無言の“意志”が襲ってきた。

肘を立てて受けるが、重い。

ただの肉体、それだけのはずなのに、()()()()()()()()()()()()()()がある。

“俺は語らない。だけど――”という、沈黙のままぶつけられる打撃。


セイが距離を取る。

足裏で砂を蹴り返しつつ、低く滑るような反撃の踏みこみ――

胴をひねり、回し蹴り。

ナオは受けない。

半身をずらし、蹴りの芯を外しながら軸足に膝をぶつけてくる。

“構文なしの読み合い”だけで、優位を取る圧。

言葉を捨てた者の動きが、

“語る者”だった自分より、遥かに冴えて見えた。


次の瞬間、拳と拳がぶつかる。

衝突音が鳴らない。構文記録がゼロだから、空間に“記録される衝撃”すらない。

だが体はちゃんと痛い。


“語らない世界”で戦うというのは、

ただ誰にも見届けられずに、「本気」を続けることだった。


最後、ナオは胸元に拳を突きつけたまま、ただ見つめるだけで動かない。

セイの腕が止まった。呼吸だけが、二人のあいだに折り重なっていた。





《シル・サプレッサ》が解除される。

セイがポツリと呟く。


「……ねえ、さっきまでの私、なんで“勝つ”つもりだったんだろう」


自分でも不思議そうに笑った。


セイは言った。


「……君の拳、たぶん語り手の誰よりもうるさかったよ」


構文記録には何も残らなかった。

でも、周囲の語義候補者たちはその後――少しずつ、ナオを「語り手」として認識しはじめる。


――その日、“語られなかった記録”が

最も深く、語り手たちの心を揺らした。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

肉弾戦ってなんかいいですよね。だけど描写が難しい。

二章も頑張っていくので応援していただけるとありがたいです。

次回もよろしくお願いします。

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