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Genesis of Deicide  作者: キキ
第一章 語られぬ者たちの序列/Lexical-Hierarchy
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語った、その先に待つ”椅子”

「語ってしまった者は、

もう語られずにはいられない。

それでも――“語る理由”があるなら、それは祈りであってもいいと思った」


構文圧制御塔第五観測層。

記録官マリエルは、端末に映る最新の演算軌跡を見つめていた。


【神格構文:未確定】

【観測対象:ナオ=ミカド】

【状態:語義源波持続 → 世界構文の自己修復を誘導中】


「“語りが世界を癒やす”……?そんな事例、今まで一件もなかった」


隣のオペレータが問う。


「このまま、彼を“神性候補”として管理すべきですか?」


マリエルは首を振った。


「違う。“神”にしようとした瞬間に、彼はもう“語れなくなる”。

今の彼は――まだ“自分のために語っている”」



学園地下の静謐層。

ナオはひとりで資料塔の最上階にいた。

演習記録でも、観測官からの報告でも、誰も彼に語りかけてこない。

だが、それがむしろ心地よかった。

ただ風と機械音、

そして――ナオ自身の内側で、言葉が“定義されずに残っている”感覚。


「お前、今どこにいるんだよ」


小さく、問いかける。

けれど、イドの声はもう返ってこなかった。


不意に、構文帯の風景が歪んだ。

脳裏に焼きついたような白。音のない空間。

そして中央に置かれた、見慣れない椅子。


誰も座っていないはずなのに――

たしかに“誰かがそこにいたような記憶”だけが、ナオを立ち止まらせる。


『あそこに座れば、君も“神になる”んだろうね』


聞こえたのは、記憶だったのか幻だったのか。

でも、たしかにイドの気配だけが――温度なく、背後に滲んでいた。





その夜、ミールから一通のメッセージが届く。


【“語ったあとに残るもの”って、さ。

……孤独じゃなくて、“責任”なんだと思う】

【お前がそれを選んだなら、

俺はまだ“信じる”準備、できてる】


翌朝、ナオは初めて自分から演習塔の訓練室に入った。

制御構文を展開し、“語らなくても現象を起こせる”力はまだ健在だった。

でも、今日は口を開いた。


「俺は……語る。

誰かの定義のためじゃない。

“語られなかったやつら”が、語られる前に消えないように」



観測ログが再び揺れる。


【異常反応:構文階層外で構文律の再演算検出】

【空間名未登録:仮称“語座領域”】

【内容:中心座標に“空席の椅子”存在】

【制御機関:なし】

【構文同調対象:ナオ=ミカド】


――世界はまだ、語り手を選んではいなかった。

でも、語った者に“椅子”は見えるようになっている。


問題は、その椅子に“座ろうとする理由”を――

語れるか、どうかだ。



第一章:語られぬ者たちの序列 完

最後まで読んでくださりありがとうございます。

二章も頑張って語っていくのでよろしくお願いします。


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