構文制圧戦
「語られてしまった者は、もう“世界の一部”だ。
だから奴を黙らせろ――“語る前に、消せ”」
構文視塔の語義爆裂事件から2時間後。
理文省直属の制圧部隊《ミュート=ゼロ》が構内に潜入した。
任務名は明確だった:
【対象:ナオ=ミカド】
【危険構文区分:発語・未定義神性】
【抹消優先順位:最上位】
「……あのクソが本気で来やがったのか」
ミールが端末越しに制圧ログを読みながら舌打ちする。
「“語る側に移行する兆候”って……どんな理屈で生徒を処理対象にすんだよ」
イーリスは構文帯を展開しながら小さく呟く。
「ナオは、“語ってしまった”から、もう“彼らにとっての世界”じゃないんだ」
ナオは地下の構文隔離室にいた。
言葉を口にすれば、また空間が軋む。
でも黙っていても、“誰かの記述”が内側で疼いていた。
『来るよ。僕を……いや、“君を神にしたくない者たち”が』
「……もう、逃げない」
自分のせいで誰かが“語られすぎた”のなら――
自分の言葉で、それを止めてやる。
瞬間、構文室の天井が爆裂する。
金属装束に包まれた“白の制圧者”たちが降下してきた。
【発語即刻拘束】
【構文抑制術式:語源遮断装置 起動】
術式が空間に展開される
ナオの口が開かれる前に、“語彙ごと封印”する構文の網。
だがその網を、誰かの火線が焼き崩した。
「誰が語らせるかは、あんたらじゃないでしょ――」
イーリス=カーラ、構文詠唱ゼロで接触型炎槍を放つ。
背後からはヴァルクスの重力波、ミールの時間遅延。
特別演習班が、彼の前に立ちはだかった。
「ナオ、俺たちで“世界の聞き分けの悪さ”を叩き込んでやろうぜ」
敵の構文隊は語彙遮断/空間交差/黙示連結式――
あらゆる術式で“語りの力”を封じに来る。
だがそれは、言葉を道具としか見ていない連中の攻撃だった。
ナオの中で、言葉が震える。
(語りたいわけじゃない。だけど――)
(“黙っていても守れない”なら……)
手を掲げる。
「……俺の語る“空白”を、聞け」
瞬間、制圧官の術式がすべて沈黙した。
【反発構文:Null Wave(言語基底相殺)】
【対象:“定義された語彙”のみ】
【解除結果:語彙術式56%崩壊】
「語られてる側で止まる気はねぇ」
「俺は“語る前提で黙ってた”んだよ――!」
イドの影が、ナオの背に立った気がした。
でも、何も言わなかった。
ただ、ほんの少しだけ――**“安心したような沈黙”**を残していた。
制圧部隊は撤退。
マリエルは端末にこう記した。
【観測結果:語彙使用あり】
【未覚醒区分 → 半自律言語構文】
【状態:“神格の手前”】
――この世界では、“語る”ことが始まりであり、終わりでもある。
ナオはその扉に手をかけた。
今度こそ、“自分の言葉”として。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
次回で一章最終話です。
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