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Genesis of Deicide  作者: キキ
第一章 語られぬ者たちの序列/Lexical-Hierarchy
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語義爆裂

「最初に言葉が壊れるのは、いつも“意図してないとき”だ」


演習後の休息時間。

ナオはひさしぶりに、イーリスとミールに呼び出された。

場所は屋上の旧構文視塔――今は使われていない展望室。

曇りがちな演算空の下、空気は妙に静かだった。


「言えよ、何か考えてるだろ?」


ミールが言う。

イーリスは黙って手すりにもたれて、遠くを見ていた。


「いや……別に……何も……」


「嘘。語る気配がにじんでる。まだ言葉になってないだけで、

“出したい”って心が、言葉の形を求め始めてる」


「……そんなの……」


「怖いか?」


ナオは黙った。

そして――小さく、声がこぼれる。


「……少し、だけ」


イーリスがこちらを見た。


「いいんじゃない?怖がってるうちは、多分大丈夫」




構文塔の下で、観測装置がアラートを鳴らす。


【構文密度:異常上昇】

【語彙発振:観測単位を超過】

【対象:特異存在ナオ=ミカド/付近】


そのとき、ナオの胸に“響いた”言葉があった。

誰が言ったわけじゃない。自分の内側から、ふと浮かびあがった。


『世界は、語りかけてはこない。

だからこそ、“俺が語るしかなかった”んだ』


誰だ、その言葉は。

自分か?あいつか?どっちだ――

思考が追いつくより先に、声が――


「なあ、お前らはさ、神をさ、やめたいと思ったこと……」


言い切る前に、空間が――割れた。


突如として、構文塔の視覚構造が歪む。

文字列が天井から降りそそぎ、空間座標が複数化する。


語義爆裂ワード・クラッシュ発生】

【原因:未登録語彙の誤発音 → 世界定義との不整合】

【観測:神性定義階層と同期開始】

【周囲対象:意識同調発生中】


イーリスが即座に盾構文を張り、ミールが演算空間の再同期を試みる。


「喋ったな、“定義されてない言葉”を――!」


「そんなつもりじゃ……!」


「つもりなんか要らない!“語る力”は、意図とは別に“世界を巻き込む”!」


ナオの両手が震えていた。

言ったのは、ほんのひとこと。

でも確かに、それはこの世界にとって**“定義外の罪”**だった。




観測塔全体が一時封鎖され、マリエルが急行する。

ナオは隔離空間で一人、壁を見つめていた。


「……言葉って、こんなに……こわかったっけ……」



静かに、声がした。


『でも、君は“言ってしまった”んだ。

あの言葉は、世界の裏側を触るフレーズだった』


「俺は……間違えたのか?」


『それは――“語られなかった者”だけに許された問いだよ』



――最初の“語り”は、世界を震わせた。

語義のない言葉は、意味を持たないまま、現実を裂いていく。

そしてそれは、語られすぎた者だけが知っている痛みだった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

次回は二話同時投稿で一章最終話です。

よろしくお願いします

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