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Genesis of Deicide  作者: キキ
第一章 語られぬ者たちの序列/Lexical-Hierarchy
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語義なき構文たち

「語りたい言葉が、語られたくない心を貫くとき、

人は初めて“自分の言葉”を持ち始める」


演習後の構文評価室。

ナオ=ミカドの構文圧は計測不能だった。

というより、記録そのものが“反応しない”。

マリエル・フロウは端末を指で叩きながら、主任官に静かに言った。


「彼はやがて“語る”。……それだけは確定事項です」


「問題は“何を語るか”だろう」


「いいえ、違います。“彼が語るとき、私たちはどうなるか”が問題です」



廊下を歩くナオの前に、レイザ教官が立ちはだかった。


「今日の演習、制御しようとしたな」


「え……?」


「お前、自分で“言葉を選ぼう”としたろ。気づいてないかもしれないが――

それは既に“語りの兆候”だ」


ナオは答えなかった。

でも、自分の口の中に“何かの言葉”が湧いていたことは確かだった。

そしてその言葉は、どこか――温かく、

同時に“他人の死体みたいに冷たい何か”を連れてきていた。




その夜、訓練班の共有スペースにて。

イーリスとヴァルクスがナオの話をしていた。


「……少しずつ変わってきたよな、あいつ」


「言葉がまとまり始めたからな。怖いのは――“語ろうとすること”だ」


「違うよ」


割って入ってきたのはミール。


「一番怖いのは、本人が“語りたくない理由”を知らないことさ」






夢の中で、またあの階層が現れた。

構文で作られた空間。

ただ静かで、言葉が降ってこない“世界の余白”みたいな場所。


『語らなければ、生きられない世界ってさ……しんどいよね』


イドの声。今日は近くなかった。ただ、妙に優しかった。


「お前は、それでも語ったんだろ」


『うん。でも“語られたまま終わる”のが……嫌だった。

だから僕は、生き延びちゃった』


「終わりたかったのか?」


『……君がその答えに辿り着く時、たぶん僕も決まるんだろうね』


朝。ナオは一言も口をきかずに食堂を出た。

ただ、誰かが背中に「おはよう」と言った気がした。

でも振り返っても、誰もいなかった。



――語義を持たない言葉たちが、静かに口の奥に宿りはじめる。

それが自分のものなのか、誰かの残響なのか――

まだ、わからない。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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