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Genesis of Deicide  作者: キキ
第一章 語られぬ者たちの序列/Lexical-Hierarchy
11/60

記録神域《ゼロ=レイン》

本日も三話同時投稿です

「語られた神性は、記述の彼方で夢を見る。

そして、語りかけてくる――“もう一度、語ってくれ”と」


第零記録層(ケイオス・レイズ)

公式には存在しないはずの階層、《ゼロ=レイン》へ向けて、特別演習班に招集がかかった。

ナオ、イーリス、ミール、ヴァルクス、アルネ、ほか二名の同期――計七名。

監視官マリエルも同行する任務は、明確に“観測と封鎖”を目的としていた。


【目的:神性構文残響の安定化】

【補足:階層内では演算抑制帯が変動する恐れあり】

【備考:ナオ=ミカドは“構文反応体”としてデータリンクを行うこと】


「なんで俺が……」


小声で呟いたナオに、ミールが笑った。


「“語られない”君が最初に反応するなら、

きっとそこには“語られすぎたもの”が残ってるって理屈だろ。……皮肉な話だけどね」


「別に反応したくてしてんじゃねーし……」


「それな。俺も“タイムコードの乱れ”で招かれた口だ。

でも――“壊れたもの同士”のほうが、静かに読める記録もあるんだよ」


ゼロ=レインに降り立った瞬間、皆の視界が濁った。

空気が動いていない。時間が、滑っている。

世界がただ“再生待ちの語り手”のように、沈黙していた。

構文は乱れていない。壊れてもいない。

ただ、「すでに語られたもの」が、あまりに静かすぎた。


「……誰か、いたな。ずっとここに」


アルネがぽつりと呟いた。


「ずっと座って、語り直してた……誰にも届かない、神話みたいな言葉で」



遠くの残響装置が“記録律”を再演算しはじめる。

その瞬間、塔の壁面から崩れ落ちた文字列が浮かび上がる。


【記述復元開始】

【神性コード:No.00/語り主(First Echo)】

【語り手:正体不明/構文断片:Null=語義未確定】


演算装置に不明な干渉波が走る。

構文障壁がひび割れ、隊の後方が一瞬だけ遮断された。

その瞬間、ナオの内側が疼いた。


『また“声”が、記録を読んでる……

でもこれは……語ってほしくて震えてる記憶、だ』


イドの声だった。

今までよりも――少しだけ、“近かった”。


ナオの手が無意識に、崩れた構文に触れる。

だがその行為は許可されていないはずなのに、

装置が逆に反応し、“語義再編”が始まってしまう。


【未登録コードによる言語圧縮波起動】

【復元対象:記録No.0《Prototype God》】

【警告:再演算により“神性定義”が起動される恐れあり】


マリエルが鋭く指示を飛ばす。


「ナオ、構文端末から離れて!それ以上は――」


しかしもう、遅かった。


瞬間。

構文世界の色が塗り替わるように、

塔の天井を貫く“黒い語り”が、空間そのものを貫いた。

時間が、少しだけ軋んだ。


『彼は、ここにいた。

でも彼は、もう語られたくなかった』


ナオの中に、微かに残る誰かの声。

それが誰かまではわからない。ただ、その感情だけが――


“俺たちを、語らないでくれ”

という静かな、祈りに似ていた。


演算は停止。構文復元は中断。任務は一時撤収へ。

データログには何ひとつ残らず、ただ“空間が悲しかった”という曖昧な所感のみが隊の口々から零れた。


――誰かが、そこにいた。

でもそれは“語りかけてこなかった”。

なぜなら、それを語った瞬間に、また“神”にされてしまうからだ。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

次回もよろしくお願いします

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