神性継承階層《ゼロ=レイン》
「この世界における“神性”とは、
語られた記録の上に重ねられた、記述の亡骸である」
構文反応監視ログ《U-Vault》に、異常通知が走る。
【階層記録コード:ゼロ=レイン】
【神性残響:再起動兆候】
【関連タグ:NULL/Narrator】
理文省観測官マリエルはモニタを閉じると、誰にも聞こえない声で呟いた。
「動き出したわね……“言葉を持たない神性”が」
その頃、ナオ=ミカドは講義室を抜けて、資料塔の屋上にいた。
高層構文層に沈む夕焼けが、人工演算空で深く燃えている。
誰にも話しかけられていない。ただ、空だけが、
構文構成のざらついた静電気みたいな熱を伝えていた。
「……最近さ、よく夢を見るんだ」
ぽつりと隣に立ったミール=レフが言う。
「“神が死んだ階層”っていう変な場所で。
神性構文が崩れて、そのあと何にも残ってないんだ。
なのに、誰かがそこで笑ってる」
ナオは何も言わなかったが、胸のどこかに引っかかりだけが残った。
「ま、ただの夢だよな」
その日の晩。
特別演習班に1件の通知が届く。
【任務名:神性継承階層ゼロ=レインの視察演習】
【目的:神性演算帯の定期安定化/再構文防止】
【特記事項:観測記録者にナオ=ミカドを指定】
「また俺か……」
不満はなかった。ただ、自分の関わる場所ばかりが“動き始めている”気がしていた。
夜、微睡の中で――また“風景”が浮かぶ。
構文で積み上げられた塔の最下層。そこは静かで、冷たくて、
沈んだ言葉の亡骸が漂っていた。
遠くに誰かが座っている。だがその背中はぼやけていて、
ただ空っぽな白紙みたいだった。
『言葉は燃えすぎると、灰になる。
それでも、ずっと語り続けてる奴もいるけどね』
「……お前、誰だよ」
声をかけようとした瞬間、
ナオの手から何かがするりと零れ落ちた。
翌朝、机の上に置かれていたメモ。
【構文起動:記録未定義】
【発信元不明/Null構文断片:1件】
『あそこは静かでいい場所だったよ。
語りの声が、ぜんぶ遠くに消えていくからね』
――静かな何かが、構文世界の最深で目を覚まそうとしていた。
それは“今”ではなく、“かつて”を引きずる気配だった。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
構文って難しいですね。
次回もよろしくお願いします