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恋を知らない竜の花嫁は愛を学ぶ  作者: 柚みつ


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26.影に揺れる心

 

「もう一度、今度はもっときれいな形を……」


 息を整えて、両手を前に差し出す。魔力の流れに集中するために目を閉じて自分の中の力を感じ取っていると、ふわりと揺れる風を感じた。そうして私の口からこぼれたのは、短い呪文のような音の言葉。

 すると、差し出していた手のひらにほのかな光が集まり、薄い水の膜が球状に浮かび上がった。


「……やった!」


 喜びの声を上げたら、ぱしゃりと音を立てて水の球は割れてしまったけれど。形を崩さずに魔力を留めることが出来たのは、数えられるくらいしか成功していない。それでも、毎日コツコツと積み重ねていた分だけ、確かに成長しているのだと感じることが増えてきた。


「魔力の扱いが上達したな。特に最近の成長はすごいが、無理はしていないか?」


 そっと木陰から姿を見せたアズファルド様は、何かを確かめるように私をペタペタと触る。その手のあたたかさは気持ちよくて、そして心配しているというのが良く分かるからそのままにしているけれど。ほんの少しだけ、恥ずかしいなと思う気持ちもまだある。

 それでもアズファルド様が私を見るまなざしは柔らかくて、何よりもその感情を物語っているから返事代わりに受け入れることにしている。


「ありがとうございます。アズファルド様のアドバイスがあったおかげです。まだ思ったようにはいかないけれど」

「それでも、十分だ。お前は、確かに上達している。

 ……変わっていくのだな」


 アズファルド様は変わらず目を細めていたけれど、その言葉には私を褒めるだけではない、どこか遠くを見るような感情が含まれている響きがあった。


「アズファルド様?」

「ああ、すまないな。国王が、リィナの事を“竜語の巫女”の再来かと話していたのを思い出してな」


 そうだ。さっきまでアズファルド様は国王陛下に呼ばれて王城にいたのだった。デルマリスの侵攻で被害を受けた地域もだいぶ復旧してきたからか、国王陛下と王妃様は少しだけ気を抜いた会話を出来るようになっているらしい。

 その話題が、まさか私になっているなんて思いもしなかった。しかも、“竜語の巫女”だなんて。

 エルセリア様の血筋である私が、魂までも継いでいたとは国王陛下にだって言っていない。余計な期待とか雑音とかを遮断するために黙っていると決めてくれたのはアズファルド様だ。

 だから、国王陛下と王妃様にそれを告げる時にはきっと、私に相談をしてくれるはず。そう思っている。


「アズファルド様は、私が巫女であった方が嬉しい?」


 意地悪な聞き方が口を突いて出た。だけど、お前はお前だ、と言って欲しかった。けれど、アズファルド様は何も言わずに遠くを見つめている。

 その横顔は穏やかだけど懐かしさと、どこか哀しみが混ざって見える。エルセリア様の事は思い出として大切にしているのは知っている。エルセリア様の事を大事にしているアズファルド様を好きになったのだと言ったこともある。

 やっぱり、私はエルセリア様の代わり、なのだろうか。その思いが再び私の胸に広がるまで、そう時間はかからなかった。


「……変な事を聞いて、すみません。アズファルド様、食堂へ行きましょう。私、お腹が空きました」

「あ、ああ。微妙な時間だが、料理長は何か用意してくれるだろう」


 沈黙は、私の心に深く刺さったけれど、それを感じさせないようにわざと明るい声を出した。途端にねじを巻いた人形みたいに動き出したアズファルド様は、明らかに安心していた。

 その態度もまた、心に刺さる棘となるなんて、気付かせてはいけないんだ。

 私の言葉に思うところはあったようだけれど、アズファルド様はそのまま食堂まで一緒に行ってくれた。そうして料理長お手製のクッキーを摘まんで、お互いの話をする。

 アズファルド様は国王陛下たちとルーセだけでない、国境近くの町や村に物資を運ぶ役割を担っているからその報告をしていたそうだ。

 そのなかのひとつは私が住んでいた村だってある。離れているとは思っていたけれどそんなに遠かったのか。今度アズファルド様が連れて行ってくれると言うから、楽しみですと笑って返事をした。


 アズファルド様が私に持っていた、わずかな違和感を忘れさせるようなテンションで夕飯までを終えて、今は一人で書斎にいる。

 魔術の練習をし始めてから、なかなか来ることのなかった書斎だけれど、竜語の巫女や花嫁の儀式について調べていた頃はここが私の部屋のような気もしていたくらい、ずっといた場所。

 だからだろうか、何かを考えたくなった時には自室よりもこちらの方が落ち着くようになったのは。


「代わりじゃない。けれど、似てはいる……んだよね。だって血も魂も継いでいるんだもの」


 儀式のときに見たエルセリア様の姿は、私とは似ていない。となると、アズファルド様が私にエルセリア様を感じているのは中身か魔力か、少なくとも外見ではないのだろう。

 指に光る、真新しい輝き。それは、あの日アズファルド様が私に心を預けてくれた証でもある。

 信じている。信じたい。けれど、とずっとぐるぐると考えが巡ってしまう。


「このままじゃ、ダメだ。私も……アズファルド様も」


 区切りはついたはずなのだ。それなのにこうして急に不安がやって来るのは、アズファルド様を信じていないと言っているようなもの。

 それはきっと、アズファルド様だって同じ。儀式を終えた日から、私の事をしょっちゅう構いに来るのだって、もしかしたら花嫁に認められたからという以外の感情だってあるのかもしれない。

 もしかして、なんていくらでも想像できてしまうのだから、今日はこれ以上考えるのはやめにしよう。


「うん。そうしよう。今日はもう寝る。そして、明日の朝、聞きに行こう」


 頭を切り替えて、私はもう寝る準備をするために自室に戻る。イザベラが準備してくれていたベッドにもぐりこんで、明日の朝イチにアズファルド様と会う。それだけ告げて、ふかふかのベッドの中で目を閉じる。



「王城の、儀式の間に行きたいんです。一緒に、行ってください」


 朝いちばんに私から話がある、と聞いていたのだろう。きっとイザベラだったらアズファルド様に伝えてくれると思っていた。

 アズファルド様は驚いたように目を見開いていたけれど、すぐに真剣な表情に変わった。


「……あの場所に、何かあると?」

「あってほしい、という願いです。今もある確証はありません」


 水晶に込められた魔力は、もう少しだったら大丈夫でしょうとは言っていた。けれど、魔術を学び始めたから分かる。無機物に魔力を込めることが、どれほど難しくて大変なのかを。

 何かの拍子に散ってしまってもおかしくないのだと。だから、まだ残っていて欲しいというのは私の願いだ。

 それに、アズファルド様にエルセリア様の名前を出したくない、なんて気持ちもある。


「分かった。それが、リィナの望みなら」

「ありがとうございます!」


 私が望んだところで簡単に行ける場所ではないとは分かっているから、無茶な願いだとは思っていたのに、アズファルド様は頷いてくれた。

 それだけで満たされる心に蓋をするように、ぎゅっと手を握る。


 過去を大切にするのは、悪いことではない。けれど、囚われたままでは先に進めない。

 私は、私がこの先もずっとアズファルド様と一緒にいるために、過去――エルセリア様と、もう一度話がしたい。

 たとえそれが、アズファルド様を傷つけるような話題になろうとも。





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