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8 コリーナの提案




窓辺で刺繍を刺していると、ティナが慌てた様子で部屋に入って来た。


「ミリアお嬢様!」

「どうしたの??」

「いま下にコリーナ様がいらっしゃいました!」

「え?」


なぜコリーナがここへ??

何かあったのかしら??


「すぐに行くわ!」


急いで一階に降りると、質素な装いのコリーナとお付きの侍女が玄関ホールに立っていた。


「お姉様!」

「コリーナ!どうしたの??」

「お姉様にお会いしたくて、スレイン様に居場所を教えていただきました」

「急にびっくりするじゃない!」

「すみません。居ても立っても居られなくて」

「誰にも行き先は言ってないのよね?」

「はい。リズと街へ視察に行くと言って城を出て来ました」


リズというのは隣にいる侍女のことね。

あの日も確かコリーナの部屋にいた気がするわ。


「リズと申します」

「えぇ。私はコリーナの姉のミリアよ。よろしく」

「リズにはお姉様のことを他言しないように言っているので大丈夫ですよ」


その言葉にリズは必死に首を縦に振った。

黒髪のおさげ髪で、可愛らしい子ね。

コリーナと同じくらいの歳かしら。


「ティナ、お茶を用意してちょうだい」

「かしこまりました」

「私もお手伝いいたします」

「じゃあ一緒に行きましょう」


ティナとリズがキッチンへ向かうと、私はコリーナを2階の部屋へと案内した。


「突然訪問してすみません」

「私は大丈夫だけれど・・・。あなたは城を抜け出して大丈夫なの?」

「スレイン様にお願いをしたら、快く手配してくださいました」

「殿下が・・・」


二人は上手くいっているようね。

私が心配する必要はなさそうだわ。


「お姉様、今日はお姉様にお伝えしたいことがあってここに来たんです」


コリーナは私の手を取って真剣な眼差しを向けた。


「どうしたの?改まって・・・」

「私はスレイン様のことをお慕いしておりません」

「え?」

「私とスレイン様との間には特別な感情は一切ないんです」

「コリーナ・・・」

「初めはお父様に言われるがままに婚約を受け入れました。だけど考えてみたら、他の女性とスレイン様が結婚するくらいなら、このまま私が結婚しようと思ったんです」

「それはどうして?」

「そうすれば、お姉様が目覚めた時、お姉様に本来の居場所をお返し出来るんじゃないかと思ったんです」

「それは無理よ。結婚を取り消すことは出来ないのだから」

「わかっています。だから、お姉様と私が入れ替わればいいんです」

「え?」


突然何を言っているのかしらこの子は。


「昔から私とお姉様は瓜二つだと言われて来ました。家の者たちからも、たまに見分けがつかないと言われていましたよね?」


確かに私たちはよく似ていると言われるわ。

私よりもコリーナの方が髪色が少し明るいからすぐに見分けはつくけれど。


「先日お姉様とお会いして、お姉様が三年前と全く変わっていなくて驚いたんです。昔から私たちは似ていましたけど、今はまるで双子のようだなって思いました」


エニフィール様によると、私の体の細胞は三年間時間を止められていたのよね。

だとすると、私は今コリーナと同じ17歳なんだわ。


「だからお姉様、私と入れ替わってください」

「え?」

「これからは、お姉様が私のフリをしてお城で生活してくださいませんか?」

「そ、そんなこと、出来るわけないじゃない!」

「出来ます!リズが協力してくれますから!」

「無理よ。王様や王妃様を騙すことになってしまうわ」

「王様と王妃様には数回しかお会いしていませんし、極力話さないようにしてきましたから、簡単にはバレないと思います」

「バレなければいいという問題じゃないでしょう?コリーナ、あなたまさか初めからこれを計画していたの?」

「はい。私はお姉様が目を覚まされると信じていましたから」


コリーナが私のためにそんなことを考えてくれていたなんて・・・。


「それに、私には他にお慕いしている方がいるんです」

「お慕いしている方って、えぇ??」


なんてこと!

コリーナに想い人がいただなんて知らなかったわ!


「ですのでお姉様、どうかお願いします!」


そんなことを言われても・・・。


「髪色が違うからすぐにバレてしまうわよ」

「大丈夫です。これを準備してきましたので」


コリーナがバッグから取り出したのは、毛染め道具一式だった。


「あなた本気なの??」

「本気です!お姉様はこのままスレイン様とお会い出来なくてもいいんですか??」

「コリーナ・・・」

「さあ、お姉様、早速染めましょう」


私はコリーナの強引さに根負けして、髪を染め始めた。

途中から参加したティナとリズも、私たちの変身ごっこを楽しんでいる様子だった。

髪を染め終えて二人で鏡の前に並ぶと、コリーナが感嘆の声を漏らした。


「完璧ですわお姉様・・・」

「確かに・・・コリーナみたいね」


そして髪色を暗くしたコリーナはまるで私のようで。

ティナとリズも私たちの完璧な入れ替わりに目を見張った。


「私でも見間違えるほどですよ。お嬢様」

「本当にそっくりです」


でもこんなことをして本当に大丈夫なのかしら・・・。


「そうだわ。このことをエニフィール様にもお伝えしないと」

「お姉様、もうすぐ城門が閉まってしまいますので、急いで城に戻って頂かないと」

「でも、黙って屋敷を出ていくわけには行かないわ」

「お嬢様、エニフィール様には私から事情をお話ししておきます」

「ティナ・・・」

「お姉様、私からもその方に説明しますから、今日のところは城へ向かってください」

「そうね・・・城門が閉まってしまったらおおごとになるわね。ではエニフィール様にはくれぐれもよろしく伝えてちょうだい」


私はコリーナとティナに別れを告げて、リズと馬車に乗り込んだ。

大変なことになってしまったわ。

私がスレイン様の妃として城で生活するだなんて。


「ミリア様、こちらにこれまでのことが事細かく書かれていますので、今のうちに目をお通しください」

「えぇ。ありがとう」


コリーナったら、こんなものまで用意していたのね。

私は城に着くまでの間、コリーナの日記の内容を必死に頭に叩き込んだのだった。




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