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6 守りたいもの



エニフィール視点


   ↓


スレイン視点






国立魔導師団の休日はあってないようなものだ。

僕は今日も休日出勤をして、キース先輩の隣で魔導書を広げていた。


僕は国立魔導師団の研究部門に所属している。

魔物が出現した地域に派遣された討伐部門の団員たちから、新種の魔物の生態情報が上がってくると、討伐に有用な魔法を模索したり、無ければ創造したりするのが主な仕事だ。

僕は古代魔法と現代魔法の融合が得意で、魔物討伐に特化した魔法だけでなく日常魔法を合わせると、年に5つのペースで新しい魔法を創造している。

これは歴代の団員と比べても異例のスピードだと研究部門の部長は喜んでいた。

先日ミリアさんに見せた伝書鳩も、僕が二年前に創造した魔法を施したものだ。

録音した声を特定のダーゲットにだけ伝える魔法の伝書鳩は、手紙を運ぶ鳩よりも秘匿性や信憑性が高いため、今では重要機密を伝達する際には魔法の伝書鳩を採用するのが主流となっていた。


「お前今日はもう帰っていいぞ。先週も休めなかっただろ」

「キース先輩もじゃないですか。僕だけ休むわけにはいきませんよ」

「俺は家よりもここにいる方が気が楽なんだよ」

「またそんなことを・・・」

「ははっ。お前も結婚すればわかるよ。妻の恐ろしさがな」

「僕は当分結婚する宛てはありませんので・・・」

「そうか?例のレディとはどうなんだ?」

「だから、レディなんていませんから」

「ふ〜ん。俺はそっちの勘はよく当たるんだけどなぁ」

「先輩の気のせいです」


先輩が帰れとしつこいので、お言葉に甘えて今日は早めに上がらせてもらった。

僕は紅茶専門店に寄っておすすめの茶葉を数種類購入してから足早に帰宅した。

喜んでもらえるだろうか・・・。

離れの玄関を叩くと、ティナさんが驚いた顔で出迎えてくれた。


「エニフィール様!今日はお帰り早いですね」

「はい。仕事が一段落したので・・・」

「今お嬢様を呼んで参りますね」

「いえ、これをミリアさんにお渡しいただけますか?」

「これは・・・」

「最近人気の茶葉らしいので、お二人でどうぞ」

「まぁ!それはありがとうございます。本当にお嬢様にお会いしなくてもよろしいんですか?」

「はい。後ほどディナーでお会いしますし」

「そうですね・・・。では私からお渡ししておきますね」

「お願いします」


傷心中の彼女に積極的過ぎるのも良くないしな・・・。

こうやって少しずつ仲を深めていけたらいい。

この時の僕はそんな悠長なことを考えていた。






数日後ーーーー



「殿下!大変です!本日王妃様が開催されたお茶会でコリーナ様が・・・」

「どうした!?」

「大量の血を吐かれてお倒れに!毒を盛られた可能性があるとのことです!」

「なに!?」

「先程お部屋に運ばれました!」


どういうことだ?

なぜコリーナが・・・。

まさか、ミリアを狙った犯人がコリーナも?

とにかく今は彼女の容態を確かめなくては。


コリーナの部屋に入ると、治癒魔導師たちが彼女のベッドを囲っていた。


「容態は?」

「それが、大変危険な状態です」

「助かるのか?」

「それはまだなんとも・・・」

「最善を尽くせ」

「かしこまりました」


まさかこんなことになるなんて。

ミリアを狙った犯人は、もしかしたらコリーナなのではないかと考えたこともあった。

彼女のことを何も知ろうとせずに私は・・・。

もしもこのまま命を落とすことになってしまったら、ミリアや侯爵に合わす顔がない。


「マッシュ、すぐにリューデン侯爵に使いを出せ」

「かしこまりました」

「お前はディボン伯爵のところへ。彼女を内密に連れて来てくれ」

「はい・・・」


数時間後、リューデン侯爵夫妻が登城した。

長女ミリアに次いでコリーナまでこんなことになってしまい、どうすればいいのかと夫妻は悲嘆にくれていた。

それは娘を想ってのことなのか、家門の存続を思ってのことなのかはわからなかった。

憔悴した夫妻に客室を用意して、私は執務室でコリーナが目覚めるのを待つことにした。


「殿下、失礼します」


礼をしたマッシュと一緒に入って来たのは、フードを深く被ったミリアだった。


「突然呼んですまない」

「いえ、急用だとか・・・。どうされたのですか?」


ミリアは不安げな様子でフードを肩に下ろした。


「コリーナが毒を盛られたようだ。数時間経つが、まだ意識が戻らない」

「そんなっ・・・」

「今から会いに行くか?」

「い、行きます!コリーナに会わせてください!」


コリーナの部屋に入ったミリアは、顔面蒼白で横たわるコリーナの側に駆け寄った。


「どうしてこんなことに・・・」

「すまない・・・」

「私は自分が標的なのだとばかり思っていました。まさかコリーナまで狙われてしまうなんて・・・」

「君のことも、コリーナのことも、すべては私のせいだ・・・」


相手が誰であれ、私の愛する者を奪うつもりなのだろう。

だから特別な人を作ることが怖かった。

あまり人と関わらないようにした。

しかし王立学園でミリアと出会い、一緒に過ごすうちに、彼女となら幸せになれるかもしれない、そう思った。

だが彼女は結婚式の日に事故に遭い、意識不明になってしまった。

そして今、彼女の大事な妹もこんなことに・・・。


「ご自分を責めないでください。これは頭のおかしい者がやったことです」

「しかし・・・」

「誰も殿下を恨んだりしません。私もです」

「ミリア・・・」

「もう夜も更けましたし、殿下はお下がりください。あとは私が診ますので」

「いや、私も一緒に」

「ひどい顔ですよ?少しは休んでください。マッシュさん、お願いします」


私よりもショックを受けているはずの彼女が毅然と振る舞っていた。

これ以上情けない姿を見せるわけにはいかない。

私室に戻った私は、熱いシャワーを浴びて、強い酒を空っぽの胃に流し込んだ。

私にはない・・・。

大事な人を守れる強さが・・・。

グラスを持つ手は微かに震えていた。




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