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5 憧れの二人



スレイン視点


  ↓


エニフィール視点






「殿下、失礼します」

「あぁ。入ってくれ」


マッシュは執務室に入ってくると、いつものように騎士の礼をとった。


「エニフィール・ディボンの件ですが、間違いなく国立魔導師団に所属していました。年齢は今年で20歳、殿下とミリア様とは王立学園の同級生のようです」

「そうか。それで名前を聞いたことがあったんだな」

「彼と面識はありませんか?」

「覚えがないな。ミリアも最近知ったような話ぶりだったしな・・・」

「しかしエニフィール殿はお二人をご存知のはずです」

「あぁ。生徒会のメンバーを知らない学生はいないだろう」

「同級生であることをミリア様にお話ししていないのは少し気になりますね」

「そうだな・・・」


故意に話していないのか、ただ話す機会がないのかはわからないが。


「魔導師団では研究部門に配属されているそうです。いわゆるエリートコースですね」

「そうか・・・有能なんだな」


古代魔法の解析や魔法の開発などを担っている部門だったはずだ。


「仕事も出来る上に同僚たちからの評判も悪くないようです」

「彼に問題がなければそれでいい」

「では、ミリア様をこのままエニフィール殿のお屋敷に?」

「あぁ。私が動くとミリアの存在が公になってしまう恐れがある。彼に任せておいた方がいいだろう」


今はミリアの身の安全が第一で、私の感情を優先するべきではない。

それでも、彼がどんな人物かは確認しておいた方がいいだろうな。


「彼と会う機会を作ってくれ」

「かしこまりました」






まさか殿下から面会の申し出がくるとは思わなかったな・・・。

指定場所はここで間違いなかっただろうか。

大通りから一本入った路地にある看板もかかっていない店。

ここで待ち合わせだとあの騎士に言われたけど・・・。


「待たせてすまなかった」


低い声がして後ろを振り返ると、紺のフードを被った男性が立っていた。

青い瞳が特徴的なので、それが殿下だとすぐにわかった。


「外で待っていたのか?」

「は、はい」


どんな店かもわからないのに一人で入るのは怖かった、なんて言えない。


「入ろうか」


殿下に促されて中に入ると、そこは隠れ家的なバーだった。

カウンターでマティーニを注文して奥の個室に入ると、殿下はフードを脱いでソファに腰をかけた。

なんて神々しいお姿なんだろう。

そういえば、学園を卒業してからは滅多にお姿を拝見していなかったな。

学生の頃から一線を画していたけど、四年経った今でも美貌は健在だ。


「急に呼び出してすまない」

「いえ・・・ミリア様のことでしょうか」

「あぁ。君には感謝している。君の屋敷はミリアが身を隠すには丁度いい場所だ。君はミリアとも私とも繋がりがないからな」

「はい・・・」

「彼女は息災か?」

「お変わりございません。屋敷から出られないのが不便だとは思いますが」

「彼女は活発な人だから余計に辛いだろうな」

「はい。何かいい息抜きがあればいいのですが・・・」

「彼女はよく紅茶の茶葉をブレンドして楽しんでいたな」

「そうですか!では今度用意してみます」

「あぁ。喜ぶだろう」


殿下はミリアさんのことを気にかけているんだな。

やはりまだ彼女のことを・・・。


「それで、あの日ミリアからは詳しいことを聞けなかったんだが、彼女が何者かに狙われているかもしれないというのは本当か?」

「はい。ミリアさんの意識が戻らなかったのは、呪いの魔法をかけられていたからなんです」

「なっ!?それは本当か!?」

「はい。僕はその魔法を解析して解除する方法を探っていました」

「君はそれを、いつ知ったんだ?」

「ミリアさんが意識不明になられて一年ほど経った頃、初めて治療院に伺った時です」

「二年前か・・・」


殿下の青い瞳に暗い影がかかった。


「なぜそれを私に知らせなかった?」

「それは・・・」

「私はそうとも知らずに療養地にいた。あの頃私に知らせてくれていれば・・・」

「申し訳ございません!犯人が身近な人物であることを考えて、自分だけで解決しようと・・・」

「それは、私も疑いの対象だったということか?」

「すみません・・・」


僕の謝罪を聞いた殿下はひとつ息を吐くと、黒く艶のある髪をかき上げた。


「私こそすまない・・・。いまだにあの時ミリアの側を離れなければと考えてしまうんだ。いくら悔やんでも過去を変えることは出来ないのにな」

「あの頃僕は殿下と面識がありませんでしたし、ミリアさんのご家族も信頼出来る方たちかどうか判断がつきませんでした」

「そうだろうな・・・」

「ミリアさんに対する殺意がなかったという点を考えても、犯人は親族や知人である可能性が高いかと」

「あぁ。ミリアの存在を邪魔に感じてはいるが、殺す勇気のない人物が犯人だろう」


殿下はそう言って組んでいた足を下ろすと、真剣な眼差しで僕を見据えた。


「呪いの魔法というのは誰でも扱えるものではないんだろう?」

「はい。今の時代には禁止されている魔法ですし、古代魔法の発動には相当な魔力が必要です。普通の魔導師では無理ではないかと・・・」

「その線から犯人を特定することは出来ないか?」

「それは難しいかと思います。たとえ疑わしい者がいても、その者が魔法を発動させたかどうかを立証することは出来ません」

「そうか・・・」

「お役に立てず申し訳ございません」

「いや、君には感謝している・・・。これからもこうやって度々ミリアの近況を聞いてもいいだろうか?」

「もちろんです」


それから殿下は、学園時代のことを僕に尋ねてきた。

僕は目立つタイプではなかったので、やはり殿下は僕のことを知らなかったようだ。

あの頃の僕は、殿下とミリアさんを遠いところから眺めているだけの一生徒だった。

雲の上の存在である二人には近づくことすら出来なかった。

そんな殿下とまさかこうしてお酒を飲み交わすことになるなんて、あの頃の僕が知ったら驚くだろうな。

話してみると、殿下は思ったよりも気さくな方だった。

一介の魔導師である僕の話にも真剣に耳を傾けてくださり、この短い間だけでも殿下の誠実さが伝わってくる。

ミリアさんがこの方をお慕いしている理由がわかる気がするな・・・。

なんてお似合いの二人なんだろう。

本来なら二人は三年前に結婚をして、幸せに暮らしていたはずなのに。

運命とはなんて残酷なんだろう。

そして、二人の別れをどこかでほっとしてしまっている僕も、なんて残酷な奴なんだろう。


「幸せになってほしいのに・・・」

「どうした?」

「いえ、なんでもありません」


今夜のマティーニはどれだけ飲んでも酔える気がしなかった。




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