34 死の淵
どれくらい歩いたのかわからない。
ヒール靴はとうに捨ててきた。
履いていたストッキングもビリビリに破れて生足が覗いていた。
私はそんなことを気にする余裕もなく、スカートをたくし上げながら山道を歩いていた。
もうすぐ日が落ちてしまうわ・・・。
どこかに身を寄せる場所はないかしら。
けれど運よく山小屋が見つかるはずもなく、私はひたすら山道を進んでいた。
雨で体は芯まで冷え、口や手はかじかんでいた。
先程から意識も朦朧としていて、足元がふらついている。
でもここで足を止めてしまったら、私はもう二度とスレイン様に会えない気がしていた。
完全に日が落ちた頃、目の前に細長い吊り橋が見えて来た。
こんな道を通った覚えはないわ・・・。
どこかで道を間違えてしまったのかしら。
でも、今から来た道を戻る余裕も体力も私にはなかった。
進むしかないわ。
けれど真っ暗闇の中、この細い吊り橋を渡るのはとても怖かった。
橋の下に流れている大きな川に落ちてしまえば、きっと命は助からないだろう。
寒さからか、恐怖からなのか、私の手足は小刻みに震えていた。
渡るのよ。
ここを渡ればきっと帰れるわ。
私は両足を叩いて自分を奮い立たせた。
一歩足を踏み出しただけでも橋はゆらゆらと揺れていた。
大丈夫よ・・・。
私は綱を掴みながらゆっくりゆっくりと進んだ。
そしてなんとか橋の真ん中に差し掛かった頃、先程よりも風が強まっていることに気付いた。
早く渡ってしまわないと危険だわ。
その時だった。
川を下るように急に突風が吹き抜け、橋が大きく揺れたのだ。
「きゃあっ」
私は足元が滑り、持っていた綱を離してしまった。
あっ!
次の瞬間、私の体は橋の外へと投げ出されていた。
ん・・・暖かい・・・。
私はとても穏やかな気持ちで目を覚ました。
あら?
ここはど・・・?
私はごつごつとした岩に囲まれていた。
そして天井には橙色の灯りがゆらゆらと揺れていて。
私が上体を起こすと、一人の男性が焚き火の前に座っていた。
後ろ姿で顔はわからないけれど、腰まで届きそうな長い髪にたくましい体・・・って、え??裸??
彼は上半身に何も身に纏っていなくて。
咄嗟に自分の体を見下ろすと、私もスリップ姿になっていて。
「きゃあっ!」
私は思わず叫んだ。
「あ・・・ミリアさん。目が覚めましたか?」
彼がこちらを振り向くと、私は驚きのあまりに目を見開いた。
「エ、エニフィール様??」