30 手がかり
ミリア視点
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スレイン視点
馬車が止まると、私は目隠しをしたまま馬車から降ろされた。
地面には砂利が敷かれているようで、ヒール靴の私は何度もつまづきそうになりながら歩いた。
玄関を開けるような音がして中に入ると、外よりも少し暖かくて。
どこかのお屋敷のようね・・・。
私は二階に連れて行かれ、部屋に入ると目隠しを外された。
朝だわ・・・。
薄暗い部屋の中に朝日が差し込んでいた。
窓の外は山か森のようで、景色だけではここがどこなのか、まったくわからなかった。
後ろを振り向くと、私より少し若そうな赤い髪の青年が立っていた。
服装からして貴族ではないようだわ。
「ははっ。あんた綺麗な顔してるな。昨日は暗くてよく見えなかったからな」
そんなことを言われても喜べる状況ではなかった。
「両手は自由にしてくださらないのですか?」
「あんたが武術の達人だったらどうするんだ?俺そういうのはからっきしダメなんだよ」
確かに彼は身長はあるけれどほっそりとしていて、強そうには見えなかった。
「あ!今俺のこと弱そうだと思っただろ?」
「い、いえ・・・」
「これでも一応男だから、甘く見ない方がいいぞ?」
彼は銀色の瞳で私の顔を覗き込んだ。
この人の目は感情が通っていないみたいでなんだか怖いわ・・・。
私が後退りすると、彼はニヤリと笑った。
「しばらくはこの部屋でゆっくりしてろ。俺も隣で少し休む」
彼が部屋を出て行くと、ガチャッという音がして、鍵を閉められたのだとわかった。
窓から外を覗いてみると、屋敷の周りには高い塀があって、正面に見える大きな門は閉ざされていた。
あの門が開いている時に外に出るしかないわね・・・。
そうだわ。
彼がいないうちに、と両手に縛られている紐を解こうとしたけれど、固く結ばれていてびくともしなかった。
落胆しかけたその時、私は自分の右腕にあの腕輪がはまっていることに気が付いた。
良かった・・・。
契約魔法がかかっているから、彼に盗まれなかったようね。
裸一貫で誘拐されてしまった今の私には、この腕輪が唯一の心の拠り所だった。
きっと大丈夫よ・・・。
スレイン様が助けに来てくださるわ。
信じて待つのよ。
ミリアがいなくなってしまった・・・。
彼女が自ら城を出て行くわけがない。
何も言わずに私の側から離れるはずがない。
これは間違いなく誘拐だと私は確信していた。
火事の騒ぎに乗じて行われた計画的な犯行に違いない・・・。
改めて侍女たちに聞き込みを行うと、数人の者がミリアを見たと証言した。
見たことのない侍女と一緒に避難していたと。
誰かが城の侍女になりすましてミリアを城の外に誘導したのか?
その侍女の容姿を尋ねたが、はっきりとは覚えていないという。
あれだけ大勢の人が入り乱れていた状況では仕方がないことだった。
「スレイン様、失礼します!」
マッシュが慌てて執務室に入って来た。
「何かわかったのか!?」
「はい。昨夜不審な馬車を見たと言う者がいました」
「馬車?」
「はい。裏門から少し離れたところに黒塗りの馬車が止まっていたそうです」
「それだ!その馬車だ!どの方向へ向かったのか王都で聞き込みをしてくれ!」
「かしこまりました!」
ミリア・・・。
絶対に君を助けてみせる。
だからもう少し待っていてくれ・・・。