22 未来の僕たち
ミリアさんは大丈夫だっただろうか・・・。
あの後、あの腕輪について調べると、タランタールの王族がプロポーズの際に相手に贈る物だということがわかった。
それでスレイン様はあんなに余裕がなかったんだな・・・。
二人のあんな姿を見るのは初めてだったから、僕は内心驚いていた。
学園時代にはいつも仲良く笑い合っている姿しか見たことがなかったから。
お二人が仲直り出来ていればいいけど・・・。
灯りを消して研究室から出ると、廊下に先程とは装いの変わったスレイン様が立っていた。
「仕事は終わったのか?」
「え?あ、はい。今から帰るところです」
「そうか。悪いが、これから少し付き合ってくれないか?」
「え?」
僕はスレイン様のお忍び用の馬車に乗せられ、王都にある隠れ家的なバーに連れて行かれた。
こんなところにこんな店があったなんて知らなかったな。
「ここは静かに飲みたい時にいつも利用している店だ」
「そうなんですか・・・雰囲気のいい店ですね」
スレイン様はカウンターでマティーニを頼むと、奥の個室へと向かった。
入ってみると、四人ほどしか入らない狭い個室だったが、二人でゆっくり話すには丁度いいスペースだった。
「突然誘ってすまないな。君は酒は飲めるか?」
「はい。たしなむ程度ですが」
「では今日は遠慮なく飲んでくれ。ここはつまみも美味いんだ」
「はい。ありがとうございます」
こんな高級なバーで飲んだことがない僕は、会計が一体いくらになるのか気になってしまうけど、スレイン様には関係ないんだろうな。
僕は遠慮なく何品かつまみを頼んで、マティーニを1杯飲み干した。
それでもスレイン様が話の本題に入ろうとしないので、僕から話を切り出してみることにした。
「あの、殿下。僕に何かお話があるのではないですか?」
するとスレイン様は、一度深いため息を吐いてから僕を見た。
「今から変な話をするが・・・気が触れたと思わないでほしい・・・」
「も、もちろんです!そんなこと思いません!」
改まってどうしたんだろう?
「実は、今日ミリアが・・・三年後の未来から魔法で戻って来たと言っていたんだ」
「え・・・?」
「信じられないだろうが、ミリアはそういった冗談を言う人ではない」
「そうですね・・・」
確かに。
ミリアさんはそんな冗談は言わないだろう。
「私も初めは耳を疑ったが、今はその話を信じている」
スレイン様はいつでもミリアさんを信頼しているんだな。
でもなんでこの話を僕にするんだ?
「ミリアが言うには、彼女を過去に戻る魔法を創造してくれたのは、君だと言っていた」
「え・・・?」
僕が過去に戻る魔法を創造した??
「未来の君が作った、ということだ」
「そ、そうですか・・・」
にわかに信じがたいけど、もしもこの国でそんな魔法を作れるとしたら、きっと僕しかいないだろう。
それからスレイン様は、意識不明になったミリアさんを助けるために僕が尽力したことや、過去に戻る魔法を創造することになった経緯などを教えてくれた。
まさか僕が魔導石を取りにスラナビアの鉱山まで行くなんて・・・。
そこまでして僕はミリアさんを過去に戻してあげたかったんだな。
ミリアさんとスレイン様に幸せになって欲しくて・・・。
「君には感謝している。それを伝えたかったんだ」
「いえ、それは未来の僕であって、今の僕は何もしていませんから・・・」
「それでも、どうしても感謝の気持ちを伝えたかったんだ」
なんて素敵な方だろう。
一国の王子が僕みたいな一介の魔導師に感謝するだなんて。
「でも、まだ安心するのは早いのではありませんか?まだ犯人が捕まったわけではありませんから」
「そうだな・・・。あの腕輪があれば呪いの魔法は防げるかもしれないが、馬車の事故まで防げるわけではない」
「はい。ミリアさんには念のために数日前からお城で過ごしてもらってはいかがでしょうか?」
「そうするつもりだ。彼女のことは何があっても守ってみせる」
未来でもスレイン様はミリアさんを助けるために池に飛び込んだ。
そこまで彼女のことを愛しているんだ・・・。
ここまで想い合っている二人を見せつけられてしまえば、もう何も言えない。
きっと未来の僕も同じ気持ちだったんだろうな。
「僕にも出来ることがあれば何でも協力しますから、いつでもおっしゃってください」
「あぁ。ありがたい。君とは気が合いそうだ・・・。未来でも私たちはこうして酒を飲み交わしていたのかもしれないな」
「そうですね」
「もう少し飲むか?」
「はい。喜んで」
僕たちは日付が変わるまで、美味しいお酒と料理を楽しんだのだった。
※アルドレア王国では17歳から飲酒がOKとなっています