20 三年前の彼
ミヒル視点
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ミリア視点
「ミヒル様、お客様です」
「客?」
誰が来たのかを聞こうとして振り向くと、サハルの後ろに男がいることに気付いた。
「お前は・・・」
「スレインだ。先日会っただろう?」
あぁ。
ミリアの屋敷で会った男か。
「ミ、ミヒル様。スレインということは・・・」
サハルが青ざめた顔で私を見た。
スレイン?
確かにどこかで聞いた名だな。
俺が思い出すよりも先にサハルが口を開いた。
「もしや、アルドレア王国の第一王子でいらっしゃいますか?」
「あぁ」
こいつが?
ははっ。
これは驚いたな。
「ど、どうぞ、お座りください」
サハルは急いでテーブルの上を片付けだした。
「すぐにお茶をお待ちいたします」
サハルがキッチンへ向かうと、俺たちは無言でソファに腰をかけた。
「お前が王子だったとはな」
「お前もタランタールの王子なのだろう?」
「気付いていたか・・・。で?王子がわざわざここに何のようだ?」
「ミリアに腕輪を渡したな?」
「あぁ。あれか」
「何のつもりだ?あれは婚約者に贈るものだろう?」
「よく知っているな」
「ミリアに渡したということは、そういう意味なのか?」
「ははっ。それを聞きにわざわざ来たのか?」
「その気がないのなら、あの腕輪を外してくれ」
「その気があると言ったら?」
「なんだと・・・」
なぜあの腕輪が必要なのか、こいつには言っていないようだな。
待て・・・。
こいつが第一王子と言うことは。
「お前の婚約者というのはまさか」
「ミリアだ。来月彼女と結婚する」
そういうことか。
ははっ。
面白くなってきた。
「あの腕輪は彼女が欲しいと言うから渡した。それだけだ」
「あんな貴重な物を簡単に渡すのか?」
「簡単ではない。彼女だから渡した」
「では・・・契約を解くつもりはないんだな?」
「あいにくな」
「そうか・・・。無駄足だったな」
王子が席を立つと、ハス茶を持って来たサハルが呼び止めた。
「も、もうお帰りですか?」
「あぁ。用は済んだので失礼する」
王子を見送ると、サハルは残念そうに二人分のティーセットをテーブルに置いた。
「帰ってしまいましたね・・・。ミヒル様、お願いですから第一王子に喧嘩を売るのはやめてくださいね?」
「ははっ。ちょっと遊んでやるだけだから安心しろ」
「また悪い顔をなさって・・・」
どうやらあいつには未来から来た事を話していないようだな・・・。
つけいる隙がありそうだ。
私はスレイン様に呼ばれて急遽城へと向かっていた。
先日お会いしたばかりなのに何の用かしら・・・。
城へ着くと、すでにスレイン様が外でお待ちになっていた。
「急に呼んですまない」
「いえ、急用でしたか?」
「あぁ。君に付いて来てほしいところがある」
そうして連れて来られたのは、国立魔導師団の建物だった。
ここは・・・。
「入ってくれ」
スレイン様に促されて入ったのは、研究部門の研究室で。
目の前にはローブを着た青い髪の男性が立っていた。
エニフィール様・・・。
「初めまして。研究員のエニフィール・ディボンです」
「あ・・・初めまして」
あの時よりも少しお若いわ。
「さっそくですが、その腕輪を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はい」
私が右腕を差し出すと、彼は興味深そうに腕輪を眺めた。
「大丈夫そうです。何日か解析すれば、僕でも外せると思います」
「え?」
「ミリア、彼は古代魔法に詳しいんだ。彼ならこの腕輪にかかった魔法を解除出来る」
「解除・・・」
どうすればいいの?
腕輪を外してしまったら呪いの魔法にかかってしまうわ・・・。
「ミリア・・・もしかして腕輪を外したくないのか?」
なんて言えばいいの・・・。
「あの・・・もうしばらく、せめて結婚式の日まで着けておいてもいいでしょうか?」
それを聞いたスレイン様の青い瞳が不安そうに揺れた。
「ミリア・・・」
「スレイン様申し訳ございません。これには訳が」
「すまない。君にとってその腕輪は意味があるようだな」
「それは・・・」
「君のしたいようにすればいい」
スレイン様は少し頭を冷やして来ると言って研究室から出て行ってしまった。
このままではスレイン様に誤解されてしまうわ・・・。
呪いの魔法を防ぐためだとお伝えした方がいいのかしら。
「ミリア様」
「は、はい」
「この腕輪には魔法を跳ね返す効力があるようですね」
「はい・・・。ですのでしばらく着けておきたくて・・・」
「それを殿下にお伝えした方がいいと思います」
「でも・・・」
「何か身の危険を感じる事がおありなんですね?」
「それは・・・」
「それを殿下にお話ししてください」
「でも信じていただけるかどうか・・・」
「殿下はミリア様のおっしゃる事を否定するような方ではないと思いますよ」
そうよね・・・。
スレイン様ならきっと信じてくださるわ。
「エニフィール様、ありがとうございます」
「いえ・・・。もし腕輪を外したくなったら、その時にまたお越しください」
「はい」
彼に勇気をもらい、研究室を出た私は、スレイン様の執務室へと向かった。




