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1 残酷な事実




「ミリアお嬢様!!」

「ティナ・・・」

「お気付きになられたんですね!?」


ベッドの上で目覚めると、侍女のティナが私の手を優しく、でもしっかりと握っていた。

なぜか溢れそうなほどの涙を浮かべながら。


「覚えていらっしゃいますか?私たちは馬車で事故に遭ったんですよ??」

「事故?」


そうだったわ。

私はスレイン様との結婚式に出るために大聖堂に向かっていて・・・。


「荷馬車と衝突したんです。私は軽傷だったんですが、お嬢様は意識不明になられて・・・」

「えっ・・・意識不明?」

「はい。長い間意識が戻らなかったんです」

「長い間って?では結婚式は?」


私の問いかけにティナの瞳が揺らいだ。


「お嬢様・・・。実は、結婚式は取りやめになりました」

「そんな・・・」


重たい頭を上げて部屋を見回してみても、家族やスレイン様の姿はどこにもなかった。


「みんなはどこにいるの?」

「それが・・・」


ティナが険しい顔で口籠る姿を見て、何か大変なことが起こったのだと私は覚悟した。


「ティナ・・・話して」


ティナの両手をギュッと握り返すと、彼女はこれまでに起こったことをポツリポツリと話し始めた。


ティナによると、私は実に三年もの間眠り続けていたらしい。

両親は私が事故に遭ってからの半年間は屋敷で様子を見てくれていたけれど、回復が難しいと判断すると、私を郊外にあるこの治療院に移したそうだ。

そして事故から一年が過ぎた頃、この国の第一王子であるスレイン様と私との婚約は破棄され、さらにその一年後、私の妹コリーナとスレイン様の婚約が発表されたという。


「まさか・・・コリーナとスレイン様が?」


小刻みに震える私の手を、ティナは慰めるように摩った。


「はい・・・。先月お二人の結婚式が大聖堂で行われました・・・」

「だってコリーナはまだ14歳・・・いえ、あれから三年が経っているのだから、もうあの子も17歳になるのね」


ということは、私は20歳になったということね・・・。


「コリーナ様はスレイン様との婚約に難色を示しておられましたが、ご主人様の強い意向もあって・・・」

「お父様は何がなんでも王族との婚姻関係を望んでおられたものね・・・。それで、スレイン様は?」


彼も私との婚約破棄に同意したのかしら・・・。


「スレイン様は当初、毎日のようにお嬢様のお部屋に足を運ばれていたのですが、憔悴していくスレイン様を見かねた国王陛下が彼をイズーナの療養地に送ったんです・・・。その間にミリアお嬢様とスレイン様の婚約が破棄されてしまって」

「じゃあ、私との婚約破棄は国王陛下とお父様がお決めになったことなのね?」

「そうです」


それを聞いた私は、スレイン様の合意がなかったということにホッとしていた。

だとしても、コリーナとスレイン様がすでに結婚してしまったという事実は変わらないのだけれど・・・。


「ミリアお嬢様、申し訳ございません。私にはお二人のご結婚を止める術もなくて・・・」


ティナは声を震わせながら頭を下げた。

これはあなたのせいじゃないのに。


「ティナ・・・ありがとう。家族にも見放された私をあなたがずっと世話してくれていたのね」

「そんな!見放されたなどと、悲しいことを言わないでください」

「いいえ。私は現実を受け入れなくてはならないわ」

「お嬢様・・・」

「屋敷ではなくて、ここで目が覚めて良かったわ。お父様とお母様の前で取り乱したくないもの」


今も泣き叫びたい衝動をどうにか押し殺しているのだ。

二人が目の前にいたら、なぜ私の回復を諦めてしまったのかと詰め寄ってしまっていたかもしれない。

そんな姿は誰にも見せたくない。

それはいつどんな時でも気高くありたいという私の信念に反することだった。


「ここにお二人はおりません。私とお嬢様だけです」


ティナはそう言うと、私の頬を両手で包み込んだ。

その時初めて、私は自分の頬が濡れていることに気付いた。


7つ歳上のティナは、私が昔から唯一甘えられる姉のような存在だ。

同じ年に生まれた第一王子との結婚を期待され、幼い頃から厳しく育てられた私は、いつの間にか両親の前でも涙を見せない子供になっていた。

そんな私でも、ティナと二人でいる時だけは弱い自分をさらけ出せたのだ。


私が13歳になって王立学園の寮に入った時も、ティナはそば遣いとして付いて来てくれた。

なんでも卒なくこなせた私は、三学年になると生徒会の副会長に抜擢され、会長であるスレイン様を補佐するようになった。

その縁でスレイン様とは最終学年の四学年になった頃から想いを寄せ合い、卒業と同時に私たちは婚約したのだ。

その間、ティナは私たちが愛を育んでいる姿を見てきたので、スレイン様との婚約破棄が私の心をどれだけ抉っているのかをわかっていた。


ティナは私を胸に抱き寄せ、涙が枯れるまで背中を摩ってくれた。


「あれから三年も経ってしまっているなんて・・・。スレイン様と過ごした日々を昨日のことのように思い出せるのに。彼にとって私はもう過去の人になってしまったのね」

「そんなことはありません。きっと今でもお嬢様のことを大切に想っているはずです」

「でも彼はコリーナと・・・」

「大切な人は一人でなくてもいいではありませんか!家族や友達だって大切な人です。お二人で笑い合える日がきっと来ますよ」

「そうかしら・・・」


でもそのためには、私のこの想いを封印するしかないのでしょうね。




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