身の上話(ティア視点)
旧巫宮を目指して一日中歩き続け日が落ちた時間帯となったため、私達は簡易的なテントを作り、そのテントの中で身体を休めながら雑談に花を咲かせていた。
「はー……疲れたぁ……」
「情けないぜティア、明日からは今日以上に過酷な目にあうかもしれねぇってのによ。
しっかり飯食って体力つけとけよ」
「あんたは良くそんなにお腹に入るわね……正直引くわ」
ジンは今日で通算30個目のおにぎりを晩ごはんとして堪能していた。
「ティアは食わなさすぎ、昼飯に草餅2個しか食ってなかっただろ。だから体力もつかないんだ」
「私は少食だから、あれでお腹いっぱいなの!」
「うへぇ、俺だったら空腹で耐えられねぇぜ……正直引くわ」
「ぐぬぅ……意趣返しされた……」
「まぁ、胃の許容量は人それぞれだ。
そんなことで喧嘩をしていたら、明日から取り掛かる予定の旧巫宮攻略で和を乱す羽目になるぞ」
「はぁい……」
「話は変わるけどさおっちゃん、旧巫宮ってのはどんな場所なんだ?」
「巫宮というのは、数百年の歴史を誇る大規模なお社を構えた場所とされている。
水の巫女様が行う救済の旅の最終到達地であり、巫宮での舞踊を行うことで儀式は完成され、ヤシマの降雨招来と五穀豊穣が約束される。
旧巫宮は侵蝕域に飲まれて機能しなくなり、現在は華山都に作り直されたものが本宮になっているがな」
「水の巫女だの、救済の旅だの、良くわからない専門用語が出てきたな……」
「水の巫女とはヤシマにおける"水の魔女"の呼び名だ」
「魔女……」
「ヤシマは昔、壊滅的な干ばつの被害にあってな……。
当時神職に就いていた水の魔女が、海の神の命を受けてヤシマに雨を降らすために、各国を渡り歩いたらしい。
見事ヤシマ中に雨を降らせ、ヤシマを救済することに成功した水の魔女は水の巫女と崇められ代々受け継がれる概念となり、後世では初代水の巫女が歩んだ旅の軌跡を救済の旅と呼称するようになり、干ばつの再来阻止と五穀豊穣を願う目的で水の巫女がその旅路をなぞる儀式を行うようになったのだ」
水の巫女に救済の旅かぁ……ヤシマでは魔女が救いの象徴として扱われているらしいわね。
私が産まれたハイドランド大陸では、魔女は厄災の象徴として扱われ、ずっと迫害されて苦労してきたから、なんか羨ましいな……。
「へー」
《お前、絶対に話を理解していないだろう》
「うん」
「なんでそんな興味無さげな場所の侵蝕域を解放しようとしてんのよ……」
「俺は侵蝕域の中の景色に興味があんの。どっちかっていうと、プラムの方が巫宮に用があるらしいぜ」
「プラムが……? いったい何の用があるの?」
《前にも言ったが、我には我の目的がある。
旧巫宮には、その目的を満たすための何かがあるのだ。我にはそれがわかる》
「ずっと思っていたけど、あんたいったい何者なの……? 喋る蛇みたいな生き物なんて、明らかにこの世のものじゃないわ」
《何者か……か、それを知るのが目的の一つだな》
「自分でもわからないってこと?」
《ああ……確かなのは、この姿は我本来の姿に非ずということと、この姿になる前の記憶を失っているということだ。
自分で言うのも何だが、人智を超えた能力を所有している事から、恐らく我はこの世界の上位存在なのではないかと睨んでいる》
「そうなんだ……」
《目に見えて引きおったな小娘……》
「そりゃあ、いきなり自分が上位存在なんだとか言い出したら引くわよ……」
《あくまで可能性の話だ。
普通に考えれば離れた生命エネルギーの流れを感じ取ったり、侵蝕域の裂け目の位置を精確に探知できたり、身体をバラバラにされても再生する能力を持った者が、この世に存在する筈が無いからな》
「まぁ、それはそうね……」
不思議な生物とは感じていたけど、予想以上に大物かもしれないのね。
旅を続けていれば、いつかその真実に辿り着けるんだと思うと、ちょっとワクワクするかも。
《そんな我ではあるがこの大うつけの手を借りねば、まともに動くことすら叶わぬのが情けないことよ……。
まったく、離れたくとも離れられぬ身体なのが嘆かわしい……》
「二人はいつからの付き合いなのだ?」
「俺が4歳くらいの時からだな。
故郷が侵蝕域に飲まれたせいで、住む所が無くなって親戚のじいちゃん家《ち》に引き取られた頃には、俺の右肩にくっついてたよな」
「右肩に……くっついている?」
「そうそうくっついてんの、見る?」
「……見たい」
ジンが上着を脱いで、服の上からはあまり想像できなかったムキムキの身体を露出させる。
指摘された右肩を見ると、確かにプラムの身体がジンの身体に根付いていることが確認できた。
「どうなってんのそれ……」
《知らん》
「知らんって……」
《お前は自分の身体の機能を全て把握して、なおかつその機能を理論的に説明できるのか?》
「それは……無理だけど」
《そういうことだ、何故こんな事になっているのかは、我もジンも知る由がないのだ》
「難儀なことだな……」
「まぁでも不都合があるわけでもないしな。
プラムがいるから、俺も多少の無茶が効くし、魔術も使えるしで良い事づくめさ」
「え、ジンが魔術を使えるのってプラムのおかげなんだ……」
《我がこやつの生命エネルギーを引き出すのを手伝ってやっているからな》
「魔術を使えるのに、魔具のことも魔女のことも知らないのはおかしいなと思っていたけど……そういう事情があったのね」
「そういうこと。プラムは俺がいないと動けないし、俺はプラムがいないと無茶ができない、一蓮托生の身なのさ」
《お前は多分、我がいなくても無茶ばかりするがな。
話を戻すが海源よ、旧巫宮は国家指定侵蝕域だそうだが、攻略難度がかなり高い侵蝕域と見ても良いのか?》
「ティアやプラム殿の力があるとはいえ、この四人だけで攻略するというのは自殺行為に近いであろうな」
「そんなに危険なの……?」
「何しろ80年も前から存在する侵蝕域だからな……過去計8回に渡る攻略作戦が実行されたが、その全てが失敗に終わった魔境よ。
数少ない生き残りの証言によれば、旧巫宮の侵蝕域には雪女が住み着いており、攻略に出向いた者は全て氷漬けにされ、粉々に砕かれたとのことだ」
「氷漬けにされて砕かれるなんて……そんな最後、絶対に嫌だわ……」
「雪女かぁ……美人なのかな?」
「あんたほんと緊張感が無いわね……」
「国家指定侵蝕域に認定されてはいるが、人が通る道にある侵蝕域でも無ければ、本宮が華山都に移された現在は攻略する意味も無いとのことで、攻略作戦が立てられることも警備が置かれることもなく放置されているのが現状だ」
《つまり侵入自体は楽にできるということだな》
「攻略は楽じゃないでしょうけどね……」
「怖いんなら、別に行かなくても良いんだぜティア」
「魔女の力を役立たせるって誓ったからには、絶対に逃げないわ。
火の魔女だって、水の巫女みたいに人の役に立てるんだって、証明してやるんだから!」
「その意気だぜティア、ポジティブでいりゃ何とかなるもんだからな」
「そうと決まったら、明日に備えて今日はもう寝るわ! 疲れを明日に残したくないもの」
「そうだなぁ……俺も食いすぎて寝みぃや……ぐがぁ」
「寝るの早っ!」
長くなった雑談を終えて、いつの間にか月と星が目立つ暗がりになった時間帯となっていた。
私達は旅の疲れも手伝って、深い就寝へと誘われたのであった。




