旅立ちへ(ティア視点)
本話は 木生火の章〜邂逅 ep9.希望の火種 の続きとなります。
海源さんを救出した私達は、ジンの目的地である旧巫宮へ旅立つための準備を整えるために、一度静水へと戻ったわ。
二日間、海源さんの道場に泊めさせてもらい身体を十分に休めた私とジンは町に出て、食糧などを買い込むことにしたんだけど……。
「ちょっとジン……おにぎりなんて日持ちしないもの、こんなに買い込んでどうするつもりよ」
「今日中に全部食うに決まってるだろ」
「嘘でしょ……? こんな量食べきるつもり?」
「こんだけ食わないと身体保たねぇもん。プラムとティアの分も用意しなきゃだしさ。
おっちゃんが言うには旧巫宮は歩いて二日で辿り着く距離らしいし、二日目以降の食糧は目的地近くの町とか村で買やいいだろ?」
「それはそうかもだけど……だからっておにぎりばっかり買う必要は無いでしょ? 飽きちゃうじゃない」
「バカお前、おにぎりってのは入ってる具が違えば、ほぼ別の料理みてぇなもんだろ」
「ええ……?」
「俺の好物とはいえ、具が全部ツナマヨや昆布とかだったら5個ぐらいで飽きちまうけどさ。
これ全部違う具のおにぎりだから、飽きずに食べられるぜ」
「わかんないわ……あんたの食の価値観……」
竹皮に3個おにぎりが包まれたものを鞄いっぱいに詰め込んでいるものだから、背負っている鞄がパンパンに膨らんでいて気になって仕方ないわ……。
一回の食事で何個おにぎりを食べるつもりなんだろうか。
「でも確かにちょっと買いすぎたかもなぁ……革新領では見かけない珍しい具材が多かったから、つい気になって買い込んじまったぜ」
《まったくこの大うつけが……》
服の袖からプラムが顔を出して、今にもジンに皮肉や説教を浴びせそうな雰囲気を醸し出している。
いいぞプラム、後先を考えて日持ちの良い食糧を効率良く買えって言ってやれ。
《甘味も買わずに握り飯ばかり買いおって……、饅頭だけでも買い占めておけと言っただろうが!》
「あーそうだった、わりぃわりぃ……って、どうしたティア? 急にズッコケたりして?」
「あんたら馬鹿二人に呆れただけよ……」
《おい小娘……ジンだけならまだしも、我までうつけ扱いとはどういう了見だ!》
「似た者同士のバカップルよあんた達は。
私は別に食糧用意してくるから、あんたらはそこで夫婦漫才でもしていればいいわ……」
こんな天然二人に振り回されていたら、私まで馬鹿に染まっちゃいそうだったから、二人から離れて買い物をすることにしたわ。
「なーにツンケンしてんだあいつ……もしかしておにぎり嫌いだったのかな?」
《いや、甘味を用意しなかったお前に呆れて、やさぐれたのだろうよ》
「そうかぁ……悪いことしたなぁ」
―――――――――
「まったく……ジンはともかく、プラムまであんなんじゃこの先が思いやられるわ……」
「え〜!? 船が出せないってマジ〜!?」
「ん?」
別の商業区域へ出向く際に港を通りすがった私は、何だか騒がしい声が耳に入ってきたので騒ぎの原因に目を向けてみた。
「申し訳御座いません、現在海路上に謎の巨大タコが出没しておりまして……。
外国へ出る船が、そのタコに沈められた事件が起きた為に、国から出船を禁じられているのです」
「船を沈めるほどの巨大タコ! それはなんとも面妖な話だな!」
「なーに楽しそうにしてんのそがっち! すぐにでもハイドランド大陸に、向かわなきゃ行けないのにさぁ……」
長身の男の人が二人に、着物美人と犬を侍らせた、髪の毛が綺麗な空色をした丈の短い和風を着ている女の子の姿が見えた。
外国に出る船が出なくて困っているようだった。
「何だか大変みたいね……」
「ティア、どうしたのだこんなところで」
「あ、海源さん!」
「ジンと買い物をしていたのでは無かったのか?」
「ちょっと別行動中なの、これから私の分の食糧を買いに行くところだったから、海源さんも手伝ってくれない?」
「あい、わかった」
私達と同じく買い出しに行っていた海源さんとばったり出くわした私は、せっかくだから私の食糧選びに付き合って貰うことにした。
海源さんがいつもと何か風体が違うなと感じた私は、その違和感の正体が腰にかかった二本の刀にあることに気づいた。
「あれ? 海源さん、二本も刀持ってたっけ」
「ああこれか……ついさっき昔の弟子に出会ってな。
これはその弟子に免許皆伝の証として与えた刀だったのだが、ある事情で一時的に借り受けたのだ」
「ふーん……」
事情というのが何なのか少し気になったけど、あんまりプライベートな話に首を突っ込むのも無粋だなと思った私は、そのまま話を発展させることなく買い物に付き合って貰った。
そうして旅支度を終えた私達は、一度荷物を取りに海源さんの道場に戻ると、ジンが既に帰って来ており、その傍らにいた飛鳥ちゃんが出迎えてくれた。
「おかえりなさい、お二人方。
荷物はある程度まとめておきましたよ」
「ありがとう飛鳥ちゃん!」
「おっちゃんもありがとな。
おかげ様で万全に旅を始められるよ」
「なぁに、お主らには大恩があるのだ。
二日三晩、泊めただけでは返しきれぬ恩がな……飛鳥よ」
「はい、父上」
「某は旧巫宮の侵蝕域解放を手伝うことにした。だから、道場のことは頼んだぞ」
「は!?」
「ええ!?」
「畏まりました父上」
「ちょい待ち……! おっちゃん、そこまでしてもらわなくたって良いって!」
「恩を返さずして大義ならず、これでも剣の腕だけは立つのでな。足手まといにはならぬさ」
《確かにお前の剣術は、生命エネルギーを纏わずに侵蝕獣を両断できるほどの凄腕ではあるが……いくら強くても、魔術を扱えぬものを戦力として数えることはできんぞ》
「それならば心配は要らぬさプラム殿……」
そう言うと、海源さんは弟子の人から借りたと言っていた刀を抜いて、瞑想するかのように目を閉じて静止した。
「……はぁッ!!」
「!」
「これは……!?」
《水の性質を持つ生命エネルギー……その刀が魔具か》
「その通り……久方ぶりに扱ったが、衰えることなく応えてくれたようだ」
《なぜ侵蝕域へ行った際に、その刀を持っていかなかった?》
「愛弟子に預けていた刀でな……つい先ほど再開して借り受けた」
私は海源さんが言っていた"事情"が、私達の旅について行くことだったんだと私は理解した。
「飛鳥ちゃんは大丈夫なの? 一人で道場に残っちゃうことになるけど……」
「一通り家事はこなせますので大丈夫ですよ。
これでも一応道場の師範代でもありますので、収入面でも問題はありませんよ」
《ふむ……ならば良かろう。
海源にも此度の侵蝕域解放を手伝って貰うことにしよう》
「おいおい……」
「数がいるほど成功しやすくなるのが道理でしょ、素直に受け入れなさいよジン」
「まぁそれもそうか……んじゃ、短い間ではあるけどよろしく頼むぜ、おっちゃん」
「うむ、任されよ」
「よーし! そうと決まれば、さっそく出発よ!」
「皆様方、どうかお気をつけて……」
侵蝕域解放の準備を終えて、海源さんという頼りになる助けを得た私達は、ジンの目的である旧巫宮に向けて足を進めるのであった。




