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五芒星の魔女  作者: 南無三
金生水の章〜邂逅
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宣教師・オレガノ

「貴様の悪行も今日限りだ"魔女刈り"!!」

「…………」

「"サイレントスパーク"!!」


――長身の男は因縁めいた言葉と共に、黒尽くめの男へと再び雷撃を放つ。


 黒尽くめの男がボロボロのマントを翻して、雷撃を防御している隙に、長身の男が絢芽の前方へと盾になるように移動する。


「"水の聖女様"……ご無事で良かった」

「え……聖女……?」

「必ずや魔女刈りめを討ち取りますゆえ、暫しご静観ください……。"アルブル・パルチザン"!!」

「"アイアンシルド"……」


――右腕を先端が鋭利な大木へと魔術で変化させ、黒尽くめの男へと高速で伸長する。


 黒尽くめの男は開手された右手を大地へ着き、自身の正面に黒い鋼鉄の障壁を召喚することで大木の侵攻を防いだ。


「この魔術を防ぐか……永らく世界の秩序に楯突くだけのことはあるようだな」

「…………」

「む……!?」


――黒尽くめの男が右腕を天に掲げると、指先からドス黒い生命エネルギーが稲妻のように放出される。

 それを見た長身の男と絢芽は、冷や汗を流して動揺しているようであった。


「なにあれ……空気が重くなって……」

「"(いん)"の力まで扱えるとは……!? マズイッ!!」


「"ダーク"……」

「てぇぇやあぁぁッ!!」

「!!」


――未知の生命エネルギーを用いた魔術が発動されようとした瞬間、身体の火が打ち消されて息を吹き返した宗賀が、背後から大槍の薙ぎ払い攻撃を浴びせたことで中断することに成功する。


 間一髪で頬の肉を掠めながらも回避した黒尽くめの男は距離を取り、長身の男と宗賀に挟まれる形となった。


「させぬよ!」

「そがっち……!」


「若様、左右は私達にお任せを……最悪、特攻(ぶっこん)で刺し違えますゆえ」

「わう! わん!」

「ずっきーに、とがっちも……! 無事で良かった……」


――前門、後門には長身の男二人が立ち塞がり、左右には忍と忍犬がいつでも挟み撃ちにできる体勢を整えており、黒尽くめの男は完全に包囲される形となった。


「逃げ場は無いぞ……!」

「動けば斬る!!」

「…………」


――長身の男と宗賀は、黒尽くめの男へとすり足でゆっくりと間合いを詰めて行く。


 すると、男の全身からまるでガスが漏れるかのように、漆黒の生命エネルギーが吹き出し始めた。


「「「「「 !? 」」」」」

「時間か……」

「妙な真似をするな!!」

「魔女よ……お前の力はこの世界に災いをもたらすものだ……。

 次に出会った時は、必ず殺す……」

「……!」


――宗賀の警告を気にすることなく、絢芽を指差しながら脅しの言葉をかけた黒尽くめの男は、自身が発する漆黒の生命エネルギーによって身体が徐々に覆われてゆく。


 遂に男の全身を覆った漆黒の生命エネルギーが、巻き起こった突風によって天高く舞い散って行き、エネルギーに覆われた男の姿は跡形も無くその場から消え去ってしまった。


「消えた……!?」

「追えますか咎丸?」

「わぅん……」

「咎丸が匂いを感じ取れ無いとは……完全に逃げられましたね若様……」

「まぁ良い……」


――宗賀は金の魔術で生成した大槍を霧散させ、絢芽を救出した長身の男へと歩を進める。


「何方かは存じ上げぬが、助太刀感謝致す!」

「いえ……さぁ聖女様、お手をお取りください」

「あ……うん」


――腰を抜かして立てずにいた絢芽に、長身の男が手を差し伸べて身体を起こした。


「本当に間に合って良かった……奴と張り合えるほどの実力者を侍らせていなかったら、最悪の事態は避けられなかった」

「何やらあの男を知っているような口ぶりだが……奴は何者なのだ?」

「奴は"魔女刈り"……数百年も前から聖女……いや、魔女の力を持った者を殺害する活動を行う団体、または個人です」

「数百年も前からとな……!? なにゆえそのようなことを」


「かつて魔女の力が、世界に厄災をもたらすと考えられていた時代の遺物というのが俗説です。

 アイスノルド大陸の聖王国・女王であった先代木の魔女は、奴によって殺害されたとのことです。

 魔女刈りは、説明がつかない超人的な力を用いて、これまで数多もの魔女を殺害しています。」


「超人的な力……確かに本来、人が引き出せる五行の力は一つだけなのに、あの男は少なくとも火、土、金の力を用いた魔術を扱っていましたね」

「奴は全ての五行の力を扱えるのです。

 ゆえに五行相性では必ず相克の不利を取られ、白兵戦も桁違いに強力であるため、一対一ではまず勝ち目がありません。

 水の聖女様の今回の旅路が、伝統通り武士との二人旅であったならば、命はなかったでしょう」


――自分一人では至らぬ戦力だと遠回しに皮肉られていると感じた宗賀は、イジケるかのように目を細め、口角を右側に上げる。


 実際一人ではあのまま絢芽が殺されていたことを理解している宗賀は、反論もできずに心にモヤを抱えた。


「あの〜……さっきから気になるんだけど、聖女ってなに? あーしは巫女なんだけど……」

「ああ申し訳ありません、ヤシマでは巫女と呼ばれていましたね……。

 私の名は【オレガノ・クラウザー】。

 聖女信仰の総本山、ペンタ教より派遣された宣教師です」

「聖女信仰……アイスノルド大陸発祥の、魔女が人類を救済するという考えの元、魔女を聖女と呼んで神格化する宗教思想ですね」


「その通りです、私は巫女様に会うためにヤシマの地へと渡りました」

「あーしに……?」


――オレガノは絢芽へと向き直り、両膝と両拳を地面へと着かせた体勢を取る。


「え……!? ちょっ……!」

「巫女様……どうか私と共に【ハイドランド大陸】へと出向き、民達をお救いください……!!」

「!!」


――オレガノの願いを聞いた絢芽の表情が、真剣なものへと変化する。


「ハイドランド大陸は西側の大陸……エイジアとはちょうど反対側に位置する大陸ですね」

「ええ……ハイドランド大陸は現在、クーデターによって軍事国家として台頭した【ファイエンディン帝国】が掌握しており、力無き民達は明日の食糧どころか飲み水すら確保できぬ有様……。


 私は宣教師として、ハイドランド大陸に聖女信仰を根付かせようと拠点を構えているのですが、大陸に住む者達が苦しんでいる現状に居ても立ってもいられず……。


 教会の支援だけではどうにもできないと判断した私は、救済と実りの力で大陸を潤す水の巫女様の話を聞き、藁にも縋る思いでヤシマまでやって来たのです」

「…………」


「今こうしている間にも、数多もの罪無き命が苦しみ、死に絶えているのです……!

 どうか貴女の力で、ハイドランド大陸に生きる民達をお救いください……! どうか……!」


――オレガノは額を地面に擦りつけて、絢芽への懇願を強く表現する。


「わかりました……旅の途中ではありますが、ハイドランド大陸へと参りましょう」

「……!!」

「ほ、本当ですか!? 巫女様……!」


「災厄から人々を救うのが水の巫女の役目……大陸を隔てようと、その役目を果たすことが使命だと思います」

「良いのかあやめよ……軍事国家が掌握した大陸ともなれば、命の危険も付き纏う。

 長い寄り道になるやもしれんぞ」

「それでも救いを必要とする人達を放ってはおけません!」


――宗賀と絢芽は、真剣な眼差しで互いを見つめ合っている。

 見つめ合ったまま無言の時が流れ、一陣の風が二人の間に流れると宗賀の口が緩み、笑顔を浮かべた。


「ふ……! そこまでの覚悟があるならば好きにせい!

 俺は巫女守として、お主が巫女である限りどこまでもついて行こう!!」

「そがっち……!」


「若様が乗り気であれば、引き続き私達も共に行きましょう」

「わん!」

「お二人も……ありがとうございます、皆さん……!」


――絢芽は伝統領組の三人に対し、深々と頭を下げて感謝の意を伝えた。


「巫女様……! ありがとうございます……!!」

「私の力がどれほど役に立つかはわかりませんが、精一杯頑張らせていただきますので、よろしくお願いしますねオレガノさん」

「はい……!」

「確か次の目的地である静水(しずみ)に、エイジア大陸を出る船があるはず……。

 その船で大陸を出て、ハイドランド大陸を目指しましょう」


「オーケー! それじゃあみんな、シズミ目指して張り切って行こー♪」

「わん!」


――いつもの調子に戻った絢芽が、新たな目標に胸を踊らせながら、馬に乗るのも忘れて一行の先頭を歩んで行く。


 救済の旅に新たな目標が追加された一行は、ハイドランド大陸へ出る船を求めて、静水(しずみ)へと歩みを進めて行った。

序章はこれにて完結です。

次回からは木生火の章の続編となります。

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