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五芒星の魔女  作者: 南無三
金生水の章〜邂逅
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【魔女刈り】(宗賀視点)

 あれから順調に旅の足を進めた俺達は、【十酩(じゅうめい)】、【錬裏(れんり)】と二つの国で儀式を行い、後は海の貿易が栄えし国【静水(しずみ)】と俺の故郷、満国(みつくに)の隣国である【松栄(まつざかえ)】の二つを残すのみとなった。


「あと二つ回ったらこの旅も終いか……長いようで短かったものだ」

「マジでしんみりしちゃうね〜せっかく仲良くなれたのに……。

 そうだ! 三人とも、旅が終わったら革新領に遊びにおいでよ! あーしが良いとこいっぱい案内したげるからさ♪」


「ほーう、それは素敵な提案だな……どうだ鬼灯よ」

「私は忍の身ゆえ、そのような自由な時間などありませんよ。

 若様だって将軍家の一員なのですから、私と同じく時間が無いでしょう」

「えー残念……」


「代わりと言っては何だが、松栄の儀式を終えたら俺が生まれた国を案内しよう。

 仕事の一貫としてならば、親父殿も許容してくださるはずさ」

「ほんと!?」

「ああ、蕎麦が美味い良い国だぞ」

「あーしお蕎麦大好きだから、マジ楽しみ〜♪

 よっし! そんじゃ張り切って次の国へ、マッハでゴーしようぜ〜♪」

「危ないですよ、巫女様」


 目を輝かせながら馬の上ではしゃいでおるわ、こちらも楽しい気持ちになってくるな。


 気持ち新たに、人気の無い木々が生い茂る道を進んでおると、突如として目を覆いたくなるような強い突風が吹き荒れおった。


「わ!? 髪乱れちゃうじゃん、最悪〜……」

「……! グルルルゥ……!!」

「……? どうした咎丸よ」


 突風の最中において、咎丸が敵意の接近を告げる警告の唸り声をあげておる。

 何事かと周囲を警戒していると、正面の道に視界を防ぐつむじ風が強く巻き起こり、暫くして風が晴れたかと思うと、つむじ風の中心地に人が突如として現れおった。


「…………」

「……!」

「何なの、あの人……?」


 進むべき道のど真ん中に、忍のものとは違う漆黒の装束に身を纏った男が、仁王立ちで立ち塞いでおる。

 男は目を瞑っておるため感情を読み取れず、得体の知れない男の出現に、あやめは不安を隠せずにおるようだ。


「水の魔女……」

「……!」

「死すべし……」


――男の静かな開眼と共に、右腕から投擲物が放たれる。

 明確な殺気を感じ取っていた宗賀は、生命エネルギーを纏った右腕で飛翔物を鷲掴みにし、右腕に掴み取ったほのかに輝く物体を確認する。


(土の魔術で産み出された鋭利な岩石……こやつ、明確にあやめの額を狙い撃ちしよった……)


――武士の顔つきに変化した宗賀は、手中の岩石を握力で粉砕し、腰にかけた刀を抜いて戦闘体勢へ移行する。


「……!?」


――戦の経験が無い絢芽であったが、投擲された魔術の矛先が自身に向いたことを視認したことで、命を狙われたことに勘付く。


 17年の人生で初めて、命を狙われる経験をした絢芽の顔色は真っ青に染まり、多量の冷や汗を流しながら黙り込んでしまった。


「鬼灯……」

「はい……巫女様、馬から降りてください」

「あ……うん……」


――神妙な空気を察知したあやめは、鬼灯の手を借りながら急いで馬から降り、鬼灯は盾となるように自身の身体をあやめの前においた。


「ずっきー……もしかしてあーしが狙われてる……?」

「……そのようです」

「水の巫女って命を狙われるものなの……!?」

「いえ……戦乱の時代であればそういった事例もありましたが、戦の無くなった近代においては例が皆無です……」

「じゃあなんで……?」

「わかりません……とにかく巫女様は私の後ろへ、絶対に離れないでください。

 咎丸には背後を警戒させます」

「うん……」


――黒尽くめの男は再び土の魔術を絢芽へと連続で放つ。


「しゃ!!」

「そがっち……!」

「通すわけが無かろうよ!」


――宗賀は飛来した魔術の全てを、生命エネルギーを纏った刀で切り落とす。


「なにゆえ巫女の命を狙う!」

「…………」

「語らぬか……是非も無し!!」


――宗賀は黒尽くめの男へと駆けてゆく。

 疾風の如く疾さで、雄叫びを上げながら迫ってくる宗賀に対し、男は微動だにせず立ち尽くしていた。


「おおおおおッ!!」

「…………」

「ぬぅ!?」

「若様が翻弄されている……!?」


――音のような速さで振るわれる刀の一切を、男は眉一つ動かすことなく、無駄の無い動きで躱し続けている。


「ち……!」


――分が悪いと判断した宗賀は、一度大きく後方へと跳躍して間合いを取った。


「只者ではないな……俺の剣筋を初見で完全に見切っておる……。

 我が師以外でそんな真似ができる人間がおったとはな」

「…………」

「む……」


――男は背中の両刃剣を抜刀し、切っ先を宗賀へと向ける。

 冷気にも似た鋭く、冷たい殺気が剣先から伝わった宗賀は、ゾクっとした感覚に全身を一瞬支配される。


(こやつ修羅の者だな……俺を剣先だけで総毛立たせるとは……。

 使えるものを全て使っていかねば、勝てぬやもしれんな)


――何時に無く弱気な思考を巡らせた宗賀は刀を納刀し両腕を前に突き出す。

 突き出した開手された両手から、黄金色の生命エネルギーを目一杯放出させた。


「"鋼器(こうき)顕現(けんげん)蜻蛉切(とんぼきり)"!!」


――生命エネルギーは宗賀の手の平に収まる棒のような形状へと変化して行く。

 頭の高さを超えた棒状のエネルギーの先端部分が、幅広の刃へと形作られ、遂には2mを超える大槍の姿へと定まった。


「蜻蛉切を……どうやら本気のようですね……」

「いざ参る!!」


――宗賀は身の丈以上もある大槍を右脇へと抱え、左腕を前に突き出しながら男へと突進する。


「"金剛(こんごう)手裏剣(しゅりけん)"!」


――突き出した左手から、金の魔術で精製した複数の手裏剣を広範囲に放つ。

 黒尽くめの男は躱し切れない手裏剣のみを的確に剣で撃ち落とし、向かってくる宗賀への迎撃体勢を整える。


「ふんッ!!」


――宗賀は大槍の有効間合いから、男の腹部へと突きを放つ。

 突きをその場跳躍で躱した男は、空中で一回転しながら右腕の剣を宗賀の頭上目掛けて振り降ろす。


「"金剛(こんごう)烈波(れっぱ)"!」

「……!」


――左手に蓄積した金の生命エネルギーを空中にいる男へと放ち、後方へと大きく吹き飛ばす。


 吹き飛ばされながらも、空中で身を翻して体勢を建て直した男は地上へと膝を折り曲げながら着地したが、既に宗賀は間合いを詰めて攻撃体勢に移行していた。


「隙ありぃ!!」

「"ガイアーランス"……」

「ぬ!?」


――地につけたままの片腕から放った、鋭利な岩石を地上へと隆起させる土の魔術で宗賀を迎撃する。

 口元を掠めながらも間一髪で回避した宗賀は間合いを取り、流れた血を舌舐めずりしながら心を落ち着かせた。


「やりよるわ……!」

「…………」


「若様があんなにも苦戦するとは……」

「そがっち……」

「わぅん……」


――その後も攻めては攻め返しの激しい攻防が繰り広げられ、ゆうに戦闘が始まってから5分以上もの時が経とうとした時だった。


「てあァァッ!!」

「……!」

「ふ!」


――男の手に持った剣へと狙いを絞った宗賀の一振りにより、重量で劣る剣は弾き飛ばされて男は丸腰の状態となった。


「終わりだッ!!」

「…………」


――好機を掴んだ宗賀は男へと一気に間合いを詰める。

 丸腰となった男は、両手を重ね合わせた体勢で何らかの魔術を発動しようとしていた。


「"影炎(かげろう)"……!」

「遅いッ!!」


――魔術を放とうとした男へ、宗賀はすかさず渾身の一突きを腹部に放ち、貫いた。


「やった……!」

「……!?」


――確かに身体を貫いたというのに、まるで手応えの無い感触に宗賀は困惑する。

 次の瞬間、男の身体が霧のように揺らめきながら発火し、火は宗賀の肉体を襲った。


「ぬおあぁぁッ!?」

「な……!?」

「そがっちぃぃ!!」


――炎に衣服を包まれた宗賀は、火を消そうと地面をのたうち回る。


 刺されたはずの男が後方の茂みから姿を現して、苦しむ宗賀を見下ろしていた。


「…………」

「……! 神様、力貸して!! "天蛙(あまがえる)頬袋(ほほぶくろ)"!!」

「……!」


――男は(ほむら)を纏った剣を振り下ろしたが、絢芽の魔術により生成された弾力性のある水の膜によって刃を弾かれる。


 水の膜に覆われた宗賀の身体に纏わりつく火が、徐々に消滅していた。


「魔女……死すべし……」

「こっちに来る!」

「……!!」


――邪魔者をある程度無力化したと判断した男は、狙いを絢芽へと切り替えて高速で接近する。


 その道の前に、鬼灯と咎丸が立ち塞がった。


「咎丸!」

「わうッ!!」

「"爆炎符(ばくえんふ)"……!」

「わうわん!あおォォん!("土車輪(つちしゃりん)"!)」

火生土(かしょうど)合魔(ごうま)……"誘獄(ゆうごく)火車(かしゃ)"!!」


――咎丸が発動した土の魔術により、隆起した地面が車両のような形となって男へと疾走してゆく。


 鬼灯は火の魔術が込められた札を苦無に括り付け、疾走する車両に向けて投擲したことで車両が大炎上する。

 燃え盛る火炎は、まるで地獄の使者のような髑髏を型造っていた。


 男は髑髏状に燃え盛る土車両を恐れることなく直進し、遂には接触して車両は大爆発を起こし、一帯の空気を揺るがした。


「きゃあぁぁっ!?」

「確実に直撃した……これならばひとたまりも無いはず……」

「…………!? ウゥゥゥゥ……!!」

「咎丸……? まさか……!?」


――鬼灯の嫌な予感は的中し、爆発から生じた黒煙の中から無傷の男が飛び出した。


「く……!」

「ガアァァァ!!」

「邪魔だ……」

「ガハッ……!?」

「きゃんッ!!」

「ああ……!?」


――刀を抜いて立ちはだかった鬼灯の腹部を掌打で吹き飛ばし、飛びかかった咎丸は回し蹴りを浴びて宙を舞う。


 邪魔者を排除した男は、絢芽の元へと歩みを進める。


 恐怖で腰を抜かしてしまった絢芽は、男が自身に迫ってくるのをただ見つめながら後退る以外の行動を起こせずにいた。


「や、やだ……来ないで……! 私が何をしたっていうの……!?」

「…………」

「あ……!?」


――土の魔術によって足首を固定され、絢芽は距離を取るという細やかな抵抗手段すら奪われてしまう。

 目の前に立ち、自身を見下ろす冷たい目を直視した絢芽は遂に涙を流して震えだした。


「ひ……やだ…………」

「魔女刈り、遂行……」

「……!!」


――自身へと振り降ろされる刃を目撃した絢芽は、死の覚悟を固められぬままに、恐怖によって固まった目を見開き続けた。


「"サイレントスパーク"!!」

「……!?」

「え……!?」


 その時、けたたましい電撃が男の身体を包んだことで、堪らなくなった男は後方へと飛び去る。


 電撃が放たれた背後を絢芽が振り向くと、そこには一人の長身な男が立っていた。


「誰……!?」

「これ以上好きにはさせんぞ……。

 【魔女刈り】……!!」

「…………」


――駆けつけた何者かは、黒尽くめの男へ明確な敵意を向けているようであった。

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