皇国の歴史(ヴェル視点)
「そ……それじゃあ、取材を許可してくれるということで宜しいのですか!?」
「ああ、妾が許そう」
「マジっすか……!?」
「やった、やった!! ほらねジュリウス! 人間命を賭ければ、無計画な行動でも何とかなるものなのよ!!」
「ちょっと待ってよ……!」
僕にはマリーの考えが理解できない。
アルマの命を救ったとはいえ、まだ会って間もないような人間をそこまで信用するなんて……。
ジャンゴが言ったように、この二人が本当に国防に関わる情報を得る為に来たスパイだったら、築き上げてきた国が滅びる原因になるかもしれないのに。
「マリー、そこまでの権限を与えるのは危険すぎるよ……この二人がスパイだったらどうするのさ」
「もちろん条件は付けるさ。
"取材を行う際には、皇女が選定した者の監視の元、行うこと"という条件でね」
「え!?」
「破ったらどうするの?」
「即、死刑♪」
笑顔でえげつないことを軽く言ってのけたマリーに恐怖したのか、ジャーナリスト二人は身震いしながらお互いの両肩に手を置いていた。
「とりあえずは妾とヴェルが監視者として、取材内容に不利な内容が無いかを選定していけばいいさ」
「そもそもさ……何でそんなこと許可するのさ。
国にとっては何のメリットも無いのに……」
「メリットはあるさ、希望的観測ではあるけれどね」
「どんな?」
「妾達が懸命に作り上げた国は未だに【スゥマーシア帝国】の脅威に曝され続けている……。
更に帝国が皇国に関する情報を規制し、非道な国として他国にデマゴーグを流布し続けるせいで、他国への呼び掛けや援助も期待できないのが現状さ。
今はどうにかなっていても、いずれ帝国が大陸中の国や、天然資源を欲する他大陸の国と連携して攻め入られたら防ぎきれないだろう?」
「それはそうだけど……」
「第三者が皇国の成り立ちや文化、帝国の横暴を外に発信することで、妾達に味方をしてくれる勢力が現れるかもしれない……。
何もせずに脅威を待つよりも、行動して少しでも平穏への架け橋を作っていくべきだと思うんだ。
この二人は、皇国の平和を実現する希望になるかもしれない」
「そうかな……」
この二人が皇国の平和の架け橋になる……。
マリーの二人への評価は、明らかな過大評価だとしか僕には思えない。
現にこの二人はマリーの希望的観測を聞いて、そこまでの目的意識は持っていませんと言いたげな表情を冷や汗を流しながら浮かべていた。
「監視の元での窮屈な取材になってしまうが、君達の働き次第で未来ある多くの者の命を救える可能性があるんだ。
皇女として君達の働きに期待しているぞ!!」
「あ……はい……頑張らせていただきます……」
両手で握手されたピアさんの目が明らかに泳いでいる。
「そうだ名前を聞いていなかったな、教えてくれないか?」
「私はピア・パレデスといいます」
「ジュリウス・クレメンテです……」
「妾の名は【マリーシア・ゴルディーン】だ。
気軽にマリーと呼んでくれ」
「僕はヴェルナンティス・ガルシア……ヴェルでいいよ」
「さて……自己紹介が済んだところで、早速取材と行こうじゃないか」
「はい! ではまず……」
「わかっているよ、先ずはこの国の成り立ちについて聞きたいのだろう? 何を話すにも大事になることだからね」
「え……先ずは皇女様のスリーサイズを聞こうかと……」
「スリーサイズ?」
「美人っすからねぇ皇女様。
写真にスリーサイズを添えれば、男読者の支持を得られますよ〜」
「……やっぱりこの人達、国から追い出した方が良いよマリー」
「じょ、冗談ですよ〜……だからナイフをチラつかせないで……」
「……良くわからないが、国の成り立ちと歴史を話すということで良いね?」
「は、はい……お願いします!」
ジュリウスさんが録音機器を構え、ピアさんがメモ帳を取り出して取材への準備が整ったところで、マリーが咳を鳴らして国の成り立ちを話し始めた。
「アインシュベルン皇国は妾が7年前に建国を宣言したことでできた国ではあるのだが……実は国自体は、60年前からこの南西部の地帯に既に存在していたんだ」
「なんと……!? 元からスゥマーシア帝国の領土だと思っていました……。
学校ではそう教わってきたので……」
「帝国にとっては知られたくない歴史だろうから、真実を記した学書等は撤廃されているだろうね。
元々は【ホァンヴァ族】と呼ばれる民族が先住民として生活していたんだ。
ホァンヴァ族は豊富な天然資源が産出される南西部の森林地帯で、近隣諸国と上手く付き合いながら暮らしていたけれども……天然資源に目を付けたスゥマーシア帝国に攻め入られたことで、僅か一ヶ月で全面降伏に追い込まれてしまった……。
それ以来ホァンヴァ族は国を奪われた挙句、帝国の隷属下に置かれて強制労働に従事させられていたんだ。
男は朝から晩まで重労働、女は働かされるだけでなく、労働力を産出する道具として扱われてきたのさ……」
「酷い……帝国は人道的な政治体制を敷く、大陸随一の善の国家として有名だったのに、裏の顔はそんな非道だったなんて……」
「60年続いた隷属体制下は、民の平均寿命が30代を切るほどに過酷なものだった……。
末裔である妾達も、幼い頃から労働に駆り出されたものだよ……」
「そこから帝国の支配を抜け出して国家を樹立するという流れになると思うのですが……そんな環境下では、帝国の武力を一掃する絵が浮かびづらいですね」
「普通は無理であろうな……。
だがアインシュベルンに古くから伝わる、黄金郷の女神はホァンヴァ族を見捨て無かった……。
妾が9つになった日の真夜中に、妾は女神の声を聴いたんだ」
「黄金郷の女神の声……ですか?」
「"かつて栄えた国を取り戻す力を授けよう"という声を聞いた妾の身体と魂に、黄金の輝きが宿ったんだ。
そうして妾は"金の魔女"の力に目覚め、女神の声に導かれて取得した数々の金の魔術によって、国を取り戻せるだけの力を得ることができたのさ」
「確かに皇女様の魔術をこの目で見た身としては、金の魔術が非常に強力なものであることは理解できますが……だからといって、皇女様一人で国を取り戻せるほどの戦力にはならないと思うのですが……」
「それは妾の金の魔術によって作られた……」
「マリー!!」
「……すまない、詳しくは国防に関わる情報になるから教えられない」
「残念……」
マリーの金の魔術は武器の生成も可能で、マリーによって生成された武器は、魔女じゃ無い人間が魔術を扱うのに必要な"魔具"と同等の力を有する。
それらを帝国の目を掻い潜りながら、戦力分揃えた2年後に奇襲を仕掛けて、一週間に及んだ戦いの末、帝国の兵を一掃したというのが真実だけど、この真実が外に出ては何らかの対策を帝国に取られる可能性が十分にある以上、隠しておくのが無難だ。
「まぁタネは明かせないが、支配に屈する事を望まなかった民達が、命を賭けて戦おうとする覚悟があったからこそ、金の魔術と民の力を掛け合わせて1週間に及ぶ激戦の末に、勝利を得ることができたのさ。
建国宣言は敗走する帝国兵に対する勝利宣言としてやったんだけど、それが原因で民の皆から皇女として扱われるようになっちゃったんだ」
「え、そうだったんですか!? 皇帝の血を引いているからとかでは無いんだ……」
「その瞬間を、嗅ぎつけた戦場カメラマンが写真に捉えて記事にしたことで、ピーリカ大陸に皇国の建国が知れ渡る事になったということっすね……」
「そういうことだね……勢いでやっちゃったことだけど、民の皆の期待を裏切りたくないから、妾も民を導く皇女として振る舞っているというわけさ」
「大変なんですね……」
話が終わりに近づいた瞬間、曇りがかった空から雨がぽつぽつと降り注いだ。
「おや雨が……空も暗くなってきたな」
「話も区切りが良いし、取材はこれまでにしようマリー」
「そうだな……ヴェルは二人が寝泊まりできる場所を用意してやってくれ」
「わかった……そういうわけだから二人共、付いて来てよ」
「もっと色々聞きたかったのにぃ……」
「うわ、雨が強くなってきたっすよ!」
「濡れたくないなら、さっさと付いて来てよね」
僕達は雨に身体を晒さぬよう、急ぎ足で就寝部屋へと歩を進めて行った。




