取材交渉(ピア視点)
「ヴェル、これから僕と二人でご飯を食べないか?」
「まだ仕事が残っているから駄目」
「じゃあ終わったら!」
あんな近い距離で、子供のように目を輝かせながら皇女様が少年に親愛を向けているなんて……。
大人びた風貌をしておきながら、皇女様の本性はボクっ娘の年下好きだったというわけね。
「ジュリウス……これはスクープよ!
"謎深きアインシュベルン皇女、森林で少年との密会!? 危うい関係か!? 未来の花婿か!?"
この見出しで爆売れ間違いなしだわ!!」
「そんな週刊誌みたいな俗ネタで成り上がるとか嫌っす。そもそもカメラが手元に無いですし。
というか、命を救ってくれた皇女様をネタにするとか最低っすね先輩」
「う……!?」
ジュリウスに反論不可能な正論を言われ、流石の私もこのネタを外に出すことに躊躇いを覚えてしまった。
「……それとそこにいる二人組、覗き見なんて趣味が悪いんじゃない?」
「!? 誰かいるのか!?」
「い!? 気づかれたっすよ先輩!」
「下手に逃げても捕まるだけね……大人しく出ていきましょう」
少し騒ぎすぎたのか、少年に居場所がバレてしまった私達はヘコヘコしながら茂みから立ち上がった。
「君達……! いつからそこに……まさかヴェルとのやり取りを見ていて……!?」
「いえいえ! 僕達は今、来たばかりで……」
「"ヴェル、久しぶりだな!"くらいの時から見ていたよね」
「……最初からバレてるじゃない」
ヴェル君の指摘を聞いた皇女様は、俯きながら僅かに震えていた。
「……はぁ、国を背負う者として素顔を見られたく無かったのに……。
知っていたなら最初から教えてくれよヴェルぅ……」
「別に素顔なんて見られて困るものでも無いでしょ」
「威厳が無くなるだろ! 僕はまだ18歳なんだから、言葉遣いや態度だけでも皇帝らしくしないと……」
「え……18歳なんだ……」
「見えねぇ……良い意味で……」
背丈が170cm近く、主張し過ぎ無いナイスバディに加えて、落ち着いた表情と泣きぼくろが大人の色香を漂わせる皇女様が、まだ18歳だったなんて……つまり建国を宣言した時にはまだ11歳だったってことじゃない。
そっちの方が売れるネタになりそうね。
「それより……君達、勝手に動き回らないでよ。
自分達の立場がわかっているの?」
「良いんだヴェル、僕……妾が許可する」
「駄目だよマリー、この二人は侵入者なんだよ。
しかるべき処遇を与えないと……」
「この人達はアルマの命を救ってくれた恩人なんだ。
丁寧にもてなしてあげないと、恩を仇で返すことになる」
「アルマの命を……? じゃあ……それでいいや」
「いいんだ……」
「手枷も外してあげてくれ、そのままじゃ窮屈だ」
ヴェル君が横付けされた手枷の鍵を外してくれたおかげで、ようやく私達の手に自由が戻った。
「ふぃー、まさか本当に助かるとは……」
「マリー……皇女様はああ言っているけど、監視はつけさせて貰うからね。
自由にさせすぎたら、どんな情報が外に漏れるかわからないから……」
「皇女様っ!! お願いがあります!」
「…………」
「なんだい?」
「私達はシャルターガ共和国の新聞社、"トゥルース・ウィスパー"所属のジャーナリストなんです。
不穏な噂に包まれた、アインシュベルン皇国の真実を取材しにここまで来ました!!」
「真実を……」
「ジャーナリストの魂に誓って、嘘偽り無く皇国の歴史や文化を世間に伝えると約束します!
どうか皇女様お墨付きで、皇国への取材を許可して欲しいです!! お願いします!!」
皇女様は右手の親指と人差し指を顎に当てて、考え込む仕草をしている。
そこにヴェル君が私達の間に割り込んで、私の取材交渉へ釘を刺しに来た。
「調子に乗らないでよ……僕達は国の歴史や文化を外に伝えることなんて望んでいない。
君達が言った通り世間には、人食いの一族が住む国として伝わっている方が、余計な侵入者が増えずに済むからありがたいんだ。
だから取材なんて諦めて……」
「いや……これは良い方向に転ぶかもしれないよ、ヴェル」
「え……?」
皇女様は真剣な表情で、私の取材交渉を好意的に受け取るような言葉を発した。




