素顔(ピア視点)
皇女に案内された私達は、簡素な出来の医療施設へと入って行くと、先ほど怪我人と黄金像になった女の子を運んで避難した筋骨隆々な医療班の人が、慌ただしく皇女に話かけに来た。
「皇女様! 幸い死者は出ませんでしたが、二人ほど重傷者が出てしまいました!
本国の医療施設無くしては治療は不可能ですので、重傷者の黄金化をお願いいたします!」
「了解だよ……案内して」
「重傷者の黄金化……?」
「アルマとかいう女の子にやったやつですかね……? 何の意味があるんだろう……」
「うぅぅ……! まだ……死にたくない……」
「皇女様……お手数……おかけいたします……」
「大丈夫……黄金郷の女神の加護が、君達を護ってくれるよ……"エルドラドの呪縛"!」
――重傷者二人は、皇女の魔術によって黄金像と化した。
「ありがとうございます! これで本国に移送するまでの時間が稼げます!」
「とはいえ保って12時間……黄金化が解ける前に、なるべく迅速に移送してくれ。
ここに来るまでに使った車を使ってな」
「は!!」
医療班の人達が、黄金像と化した重傷者を一人につき二人がかりで運んでいった。
「持たせたね」
「あのー皇女様?」
「なんだい?」
「あの黄金化って意味があるのでしょうか……さっきの女の子といい、重傷者といい……」
「ちょ……先輩!? なにナチュラルに皇女様にそんな質問しているんすか!!」
「だって気になるじゃない。
気になったことは、ジャーナリストとして真実を追求するまでよ」
「時と場合を考えましょうよ、今の俺達は捕虜みたいなものなんですよ!」
「ははは、胆力の強い人だね……だからこそ、武装した相手に怯まず、アルマを助けてくれたのだろうけどね。
先ずは礼を言わせてくれ、君のおかげでアルマは死なずにすんだ」
「え……いや、そんな……」
皇女様が私に対して深々と頭を下げてお礼の言葉を紡いだ……何だか誇らしいわね。
「お礼ついでに教えておくと、あの黄金化は【蝕】という魔術の形態で、他者にコントロールできない生命エネルギーを肉体に流し込んで、身体の自由を奪う封印術さ。
妾の蝕は生命の流れを停止させ、肉体を仮死状態にすることができる。
アルマと重傷者を黄金化させた理由は、アルマは帝国兵の蝕により窒息する危険性があったから、妾の蝕で上書きして救出するために。
重傷者は妾の蝕で肉体の損傷具合を進行させないようにし、本国の医療機関に辿り着くまでの時間を稼ぐ為さ」
「なるほど……じゃあ女の子も無事なんですね……」
「ああ、これからアルマの蝕を解きに行くから、付いて来てくれ」
ベッドに寝かされていた、アルマの黄金像の額に皇女が手を翳すと、アルマの全身に光が満ちて徐々に黄金化から解放されて行く。
「…………んん?」
「おはようアルマ」
「……あー! マリー、ひさしぶり!」
「ははは、相変わらず人懐っこいな」
黄金化が解かれたアルマは、跳ね起きながら皇女に抱きついて、その勢いを上手くいなした皇女は笑顔でアルマを抱擁した。
なんだかほっこりする光景ね。
「仲良しですね……」
「小さい頃からの仲だからね、大切な親友の一人だよ」
「しんゆう〜」
「アァァァァルマァァァァァッ!!!」
「うわッ!? 何だ何だ!?」
「うおぉぉぉぉアルマァァァ!! どこにいるんだァッ!?」
「あの人、私達を尋問した筋肉ダルマじゃない…!?」
皇女はアルマをベッドに置いて、筋肉ダルマの元へ歩いて行った。
「おいジャンゴ……怪我人がいる場所で騒がしいぞ?」
「ぬお!? 何でマリーがこんなところに……」
「アルマはあのベッドの上だ。
死にかけたけど、あの客人が身体を張ってくれたおかげで無事だから、しっかり礼を言っておきなよ」
「うおぉぉぉぉ、アルマァァァッ!! 良かった!! 生きていて良かったぜェェェ!!」
「いや!」
「ダバァァァ!?」
物凄い速度で飛び込んできた筋肉ダルマをアルマは全力で回避したことで、筋肉ダルマは顔面から思い切り床に着地してしまった。
「にぃに、おもいからいや!」
「うごおぉぉぉ……すまねぇアルマ……嬉しさのあまりつい飛び込んじまった……」
「とんだロリコンね……」
「アルマはジャンゴにとって唯一の肉親である妹だからな、あそこまで心配するのも致し方ないさ」
「え……兄妹なの?」
「全然似てねぇ……」
「それよりジャンゴ、ヴェルはどこに……」
「ヴェルは外で死体処理の手伝いをしているぜ」
「そうか……!」
皇女はどこかウキウキとした様子で、医療施設の外へと向かっていった。
「アルマを救ってくれたんだってな……礼を言うぜ」
「いやいや、そんな……」
「何であんたが謙遜してんのよ……身体張ったのは私だっての」
「礼として待遇は考えといてやるよ……期待してな」
「帰らせてくれたらそれで良いんですけどね……」
「それは期待しないでくれ」
「そんなぁ!?」
「まぁ直ぐに帰るつもりは無いから、別に良いわ。
それより、皇女様に取材依頼を申し込みに行くわよジュリウス!! こんなチャンス、一生に一度あるか無いかよ!!」
「え!? ちょっと先輩! 調子に乗りすぎですって〜!!」
私達は皇女を追いかけて、医療施設の外に出る。
死体処理の手伝いをする人に会いに行ったという情報から、皇女の手で殺められた武装兵達が横たわる広場へと向かった。
「皇女様はどこかしら……」
「あ……! 先輩、あれ……」
人の波から外れた森林で皇女と、私達が最初に出会った褐色の少年が、二人だけで何やら会話をしている。
「ヴェル、久しぶりだなっ! また一段と逞しくなって……」
「ちょっと……くっつき過ぎだよマリー……誰かに見られたら面倒だから離れてよ」
「二ヶ月も会っていない幼馴染に対して、随分冷たいじゃないか……せっかく時間を作って会いに来たのに……」
「君の気まぐれなワガママのおかげで基地に残った人達が死なずにすんだよ……ありがとうマリー」
「もっと僕を褒めてもいいんだぞヴェルっ♪」
「子供みたいな反応しないでよ……褒めてはいないし」
「ス……スクープだわ……!」
自身よりも背丈の小さい少年に対して、まるで太陽のように輝く笑顔で子供のような態度を見せる皇女の素顔に、私達は大きなスクープの予感を覚えた。




