金の魔女(ピア視点)
「"金の皇女"……? じゃああの人が、アインシュベルン皇国の皇女……」
「ああ……! 皇女様……!」
金の皇女……7年前に天然資源の宝庫とされる南西部の森林地帯で、アインシュベルン皇国の建国を宣言したとされる、伝説の存在……。
彼女の存在を示す資料は、著名な戦場カメラマンが撮った、血に濡れた黄金の甲冑を身につけた写真一枚のみであり、長らくその風貌は謎とされてきた。
食人族の首領、血を好む戦闘狂い、生物を金に変え、商人に売りさばく魔女……あらゆる眉唾な噂が絶えない人物だけれども、私の視界が捉えたその風貌は、人々が抱く野蛮なイメージとは真逆な、凛として気品高い姿をしていた。
「"エルドラドの呪縛"……」
(……! 泥に覆われた女の子が、黄金像に……)
皇女の魔術なのか、女の子が黄金像に変えられて、身体を覆う泥が削ぎ落とされた。
「医療班! アルマと怪我人を連れて避難していてくれ」
「は!!」
皇女の後ろに控えていた筋骨隆々な人達が、黄金像と化した女の子と脚を怪我した兵士を連れて、迅速にその場を離れていった。
「へ……まさか伝説にお目見えが叶うとはなぁ、光栄なことだぜ」
「兵を退け、そうすれば命までは取らないであげよう」
「寝ぼけたことを……優勢を得た戦場で、更に金の皇女という絶好の大物を目の前にして退くわけがねぇだろうが……」
「では、命を捨てるということで良いかな?」
「捨てに来たのはてめぇの方だ……死ねェ!!」
武装した兵士が、皇女へと銃口を向ける。
「"デザーム・ヌエバ"……」
皇女が何かを呟いた瞬間に、彼女の身体から黄金の波動が放たれて、瞬く間に戦場を包み込んだ。
「……!? 弾が出ない……!」
――武装兵が弾が出ない銃に焦りを見せ、それと同時に各地で鳴り響く銃声も鳴りを潜め、静寂が訪れた
「妾がいる戦場では、鉄は草花に劣る武器へと成り下がる……。
妾を殺めたいのであれば、魔術戦か格闘に持ち込む他無いぞ」
「チィ……これが"金の魔女"の力か……! 通りで近代兵器頼りの軍じゃ勝てなかったわけだ、納得したぜ」
「理解したのであれば兵を退け……今ならまだ温情をかけてやるぞ?」
「銃を封じたくらいでイキがるな小娘が……既にてめぇは俺の魔術の術中だ……!」
「…………」
「ああ……! 足元に泥が……!」
――皇女の脚がアルマと同じように泥に呑み込まれ、泥は段々と皇女の肉体を侵蝕して行く。
「もうこれでてめぇは動けねぇ……窒息を待つのは億劫だ、その首へし折って帝国に寄与してやるぜ……!」
――胸の高さまで泥に覆われた皇女へと武装兵が近づいて行く。
そんな状況にも関わらず、皇女は冷静な表情を崩さずに、小声で詠唱を行っていた。
"俗物が求めし黄金郷の意思よ……秘匿誓いし守護人の力を我に授けたまえ……!"
「黄金郷の騎士!!」
「!?」
「あの姿は……!!」
「あの写真の甲冑だ……!」
皇女はかの有名な鎧姿へと変身し、身体を纏っていた泥を弾き飛ばした。
「温情は要らぬか……ならば妾の愛しき民を傷つけた罪、死をもって償って貰うぞ……!」
「……! 総員!! 金の皇女に組み付け!!」
――声に呼応して集まった、約30人に及ぶ武装兵達が皇女の周囲を取り囲み、一斉に皇女へと突撃してゆく。
その間に、指示を出した武装兵は強力な土の魔術を発動するために生命エネルギーを右手に集束する。
「笑止……血の裁きを受けよ……!!」
――皇女は大地を黄金に染め上げるほどの生命エネルギーを放出しながら、詠唱を行った。
"黄金郷よ……! 我は汝の秘匿に尽力せし者……! 欲に駆られし者へ、血の裁きを代行せし守護人なり……!
地の安息を願うならば、黄金の加護を纏いし宝具を我に預けたまえ!!"
「"宝具顕現"!!」
――無の空間から黄金の剣や槍、ハンマー等の武具が召喚され、宙を舞いながら皇女に害をなそうとする武装兵達を切り刻み、突き刺し、叩き伏せ、黄金の大地を悲鳴と血で染め上げる。
「な……なんだこれは!? これほどの力が……!?」
「大銃顕現……対象指定」
「ぐッ……!? クソがァ!! "砂漠狼"!!」
――右手を大地に叩きつけ、生命エネルギーを流し込まれた大地は隆起しながら、砂と岩を纏った大型の狼の姿へと形造られ、武装兵を巻き込みながら凄まじい速度で皇女へと直進して行く。
「"神鋼弾"……発射ッ!!」
――魔術により顕現した、背丈ほどもある大口径の大銃から黄金の弾丸が放たれる。
武装兵の土の魔術と衝突した弾丸は、勢いを殺されることなく狼を象った砂と岩を粉砕する。
そのまま弾丸は魔術を放った武装兵の胸を貫き、半径10cmにも及ぶ大穴を胸に空けられた武装兵は、何が起きたのかを理解できずにその場に倒れ込んだ。
「ち……ちく……しょう…………」
「強い……たった一人であれだけの戦力を倒しちゃうなんて……」
「謎に包まれた皇女の力を目の前で見れたなんて……カメラが無いのが残念でならないっすね……」
「民よ! 身体が無事な者は怪我人を医療施設に運んでくれ」
「は!!」
皇女は民に指令を与え、その後私達がいる尋問部屋を見上げる。
目が合った私達は、先ほど圧倒的強さを見せつけた皇女に潜在的な恐怖を抱いたのか、身体をビクつかせてしまった。
「そこにいる君達も一緒に来てくれないか」
「え……私達?」
「ああ」
「……わかったわ」
「ただそこからだと遠回りになるな……"グイア・ドラド"!」
「わ……!?」
「一瞬で黄金の階段が生成された……!?」
「そこから降ってきてくれ、合流したら妾が案内してあげよう」
皇女の魔術で生成された黄金の階段を降った私達は、皇女の案内の元、医療施設へと脚を進めていった。




