レイド&バイオレンス
「ハァ……暇ね」
「何が暇ですか! このままじゃ俺達、どうなるかわかったもんじゃないって言うのに!」
――ヴェル達が小隊との交戦を始めた同時刻、放置されたジャーナリスト二人は狭い密室の中、満面の笑顔を向け続けるアルマの監視を受けながら無為に時を過ごしていた。
「まぁほら、まだ死ぬって決まったわけでも無いんだから。
希望を持って生きていこ?」
「持てる訳ないでしょうが! 大体、先輩が名誉欲しさで無計画に行動するからこんなことになってるんですからね! 本当に先輩の無思慮さには呆れ果てましたよ!」
「ハァ!? そんなに文句があるんなら、最初からついてこなけりゃ良かったじゃない!」
「先輩が機材持ちとして無理矢理、俺を連れて来たんでしょうが!!」
「嫌なら断りなさいよ! 大の大人なんだから意思表示を明確にしなさいっての!!」
「嫌だって俺、言いましたよね!? それを貴女は早口でまくし立てて、無理矢理丸め込んで……! 貴女みたいな人を直属の上司に持ったことが、俺の人生の運の尽きだったんだ……!」
「なんですってェ!?」
――騒がしい二人の眼前で、アルマがメイスをフルスイングし、烈風を眼球で受けた二人は多量の冷や汗を流す。
「ちょっとだまれー」
「「 すみませんでした…… 」」
――アルマは膝を付く体制で、机に乗り上がってピアへと顔を近づけた。
「ねェねェ」
「な……なに?」
「おっぱいもませてー」
「は!? 嫌よ!」
「なんで? さっきはさわらせてくれたのにー」
「名刺入れを取ってもらいたかっただけで、胸を触って欲しかったわけじゃないわ!?」
「なんでもいいから、もませろコラー」
「いやあぁぁぁ!? 助けてジュリウスー!」
「アハハ、まてまてー」
――ピアはアルマに好き勝手させまいと密室内を逃げ回り、アルマはそれを笑いながら追いかけて行く。
緊張感が無い状況に頭を痛くしたジュリウスは、ため息をついて自身の未来を嘆いた。
「あーあ……ほんとどうなっちゃうんだろ……奇跡が起きて逃げるチャンスが巡って来ないかな……」
――叶わないであろう願いを零した次の瞬間、強い地鳴りと共に爆発音が響き渡った。
「ウワァッ!?」
「えッ、なになに!? 何が起きたの!?」
「…………!」
――異常事態の発生により笑顔を崩したアルマは、尋問室を飛び出して行った。
「あっ……ちょっと……!?」
「……先輩、これチャンスじゃないですか?」
「は? どういうこと?」
「監視の目が無い今なら、脱出できるかもしれないチャンスじゃないですか! このままここにいたって碌な目に合わないんですから、一縷の望みに賭けてみましょうよ!!」
「もし見つかったら、それこそただじゃすまないでしょうが……。
それに、この手枷を着けたまま逃げるつもり?」
「座して死を待つのは御免なんですよ! この手枷は逃げ切りさえすればどうにかなるでしょうし……」
「あんた、あれだけ私のことを無計画な人間って貶しておいて、自分だってそうじゃないの。
私だってそんな体力や帰り道を考慮しない、リスキーすぎる判断はしないわよ……死ぬって決まったわけじゃないんだから、大人しく待ちましょう?」
「じゃあ先輩はここに一人で残っていてくださいよ! 俺一人で逃げるので!」
「あ……!? ちょっと、ジュリウス……!」
――逸った判断をしたジュリウスを追いかけて、ピアは尋問室の外へと飛び出した。
「…………!」
「イキがった割には直ぐに立ち止まったわね…………って……これは……!?」
「殺せ! 女子供も構わず根絶やしにしろ!!」
――二人の眼下には、顔面を布で覆い隠した武装勢力が、突然の奇襲によって動揺している基地の兵士達や、建築物へと攻撃している凄惨な光景が繰り広げられていた。
「こいつら何処から侵入して……!? ぐあァァァッ!?」
「あぁ!? 脚を銃弾で撃たれて……」
「死ね」
「……!!」
――脚を撃たれて抵抗ができなくなった男性兵士の頭に銃を向けた武装兵を見たピアとジュリウスは、これから起きるであろう殺人を直視する覚悟を固めることができずに、目を逸らした。
「"雪華の息吹"……!!」
「……! 水の魔術……」
――倒れた兵士の肉体を包み込むように氷の障壁が出現し、障壁は弾丸の威力を殺して兵士の命を救う。
障壁が魔術によるものと見抜いた武装兵は、エネルギーの流れを頼りに発動した者を探り、西の方角を向くと、青い生命エネルギーを肉体から放出するアルマを視認した。
「あの子だ……! 何なの、あの青いオーラは……」
「こいつか……女子供のくせに、大した魔術を使いやがる……」
「アルマ……!? 駄目だ、逃げろ……!」
「ナカマをきずつけるやつは、コロす……!」
――アルマは怒りの形相を浮かべながら、自身の身体以上の生命エネルギーを垂れ流し、小さい身体に似つかわしくない高速移動を用いて武装兵へと突進する。
「チッ……!」
――武装兵はアルマへ弾丸を放ち、迎撃を試みる。
「"雪華の大傘"!!」
――左腕を前に突き出し、手の平から一瞬で傘状の、氷の大盾を形成したアルマは、銃弾を弾きながら武装兵へと一気に距離を詰めて行く。
あと数歩でメイスが届く間合いへと踏み入ったアルマは、きりもみ回転をしながら武装兵の頭部以上の高度まで大跳躍する。
「"雪華の大槌"!!」
――メイスの先端に刺々しい氷華を纏わせ、回転で得た遠心力を利用してメイスを武装兵へと叩きつける。
武装兵は横っ飛びで回避したが、叩き伏せた氷華が地面にクレーターを作るほどの威力を有していたことに、肝を冷やしていた。
「凄い力……! あんな力で殴られたら、一発でお陀仏ね……」
「なんてガキだ……ホァンヴァ族じゃなけりゃ、軍にスカウトしたいところだぜ」
「フー……! ツギはあてる……!」
「まぁ……次なんてねぇけどな」
「…………!? あしが……!」
――再び突撃しようと脚を動かそうとしたアルマであったが、まるで意思を持ったかのような泥によって脚を拘束され、身動きを取れずにいた。
「俺は土の魔術を使えるんだ。
力自慢なんだろうが、五行性質が水のお前じゃ振りほどくことは至難……こうなりゃただの生意気なガキでしかねぇ」
「うー!? どんどんあがってくる……!」
「最終的には泥人形の完成だぜ……」
「…………!!」
「完全に泥に覆われちゃった……!」
「あれじゃ、呼吸が……!?」
――魔術によって泥に覆われたアルマは、身体を震わせて抵抗するものの全く拘束が解ける気配は無く、息ができない苦痛を味わい続ける。
「このまま窒息させてもいいが、俺はガキには優しいんだ……これ以上苦しまねぇように、息の根を止めてやるよ」
――武装兵は抵抗できないアルマへと銃を向ける。
「死ね」
「アルマー!!」
――銃爪に手をかけた次の瞬間、武装兵の頭に石がぶつけられる。
ダメージ自体は負っていないものの、自身に対しナメた真似をする愚者を放ってはおけない性分であった武装兵は、額に青筋を立てながら周囲を見渡すと、頭上にある尋問所の前で立つピアの姿を見つけた。
「あぁ……? なんだありゃ、ホァンヴァ族じゃなさそうだが……」
「せ……先輩、何やってんすかァ!? あんなおっかないやつに石を蹴飛ばしたらどうなるか……ってあぁ!? 気づかれたァ!?」
「…………」
「おい……てめぇらが俺に石をぶつけやがったのか?」
「いえいえ滅相もございません!! 実は僕達はここにいる奴らに捕まった捕虜でして……」
「私がぶつけた」
「先輩ィィィッ!?」
「正直な女だな、気に入ったぜ……死ね」
――銃の矛先がピアへと向けられる。
その瞬間、滝のように冷や汗が流れたピアであったが、表情を恐怖で染めることなく、覚悟が現れたかのような強い眼差しを保ち続けていた。
そんなピアへと銃爪が弾かれ、銃弾が宙を走って頭部へ向かって音速で向かって行き、ピアの命が絶たれたと誰もが思った次の瞬間であった。
「"エスクード・ドラド"!!」
「…………!? 金の……盾!?」
――ピアの目の前に黄金の大盾が展開され、頭部を貫くはずだった銃弾は超硬度を誇る大盾に少しだけ埋まった形で防がれた。
「……? 助かったの……? というか何これ……」
「何もねぇ空間にあれだけの硬度を持つ盾を生み出すだと……!? ま、まさか……!」
「そのまさかだよ、帝国兵君」
「……!? 何故こんな前哨基地に【金の皇女】が……!?」
――声の在処へと振り向いた武装兵の視界には、褐色肌の黒いショートヘアーが特徴的な女性の姿が映っていた。




