迎撃戦
「進め、進めェイ!!」
――スキンヘッドの厳つい男が指揮を取る、40名の部隊員からなる中規模小隊が、乱れ一つ無い陣を敷いて森林地帯を駆け抜けて行く。
「今日こそは【ホァンヴァ族】共に、目にものを見せてくれる!!」
――猛りながら歩みを進める、一団の先頭の足元へ鉄矢が突き刺さる。
「ぬぅ!?」
「痛い目を見るのは君達だよ」
「出やがったな、【ヴェルナンティス・ガルシア】!! 一人で現れるたぁ、良い度胸しているじゃねぇか」
――樹木の上に陣取るヴェルを見上げた一団は、武器を構えて緊張感を纏った。
「後から大勢の兵士が押し寄せてくるよ、その中にはジャンゴもいる」
「"黒鉄のジャンゴ"が……!?」
――兵士達の間に、明らかな動揺の様子が見て取れた。
「40人程度の小隊じゃ全滅は目に見えている、ここで帰るなら命までは取らないよ」
「そうだな……ジャンゴがいるんじゃ分が悪い。
ご好意に甘えてさっさと帰らせてもらうぜ……てめぇを殺した後でなッ!!」
――銃持ちの兵士達が一斉にヴェルへと銃口を向けて弾丸を放つ。
ヴェルは背後から樹木を飛び降りて銃弾を回避し、樹木を蹴り飛びながら地上へと落下してゆく。
「"バレラ・デ・ロカ"……!」
――地上への着地と同時に、片手を地面にかざすと地面が隆起して土壁と化し、生命エネルギーによって硬化した土壁が銃弾を防いだ。
「これは……!?」
「土の魔術だ! 回り込んで白兵に持ち込めェ!!」
――サーベル持ちの兵士達が、土壁の外側へと回りこんで行く。
「……!? いない……」
「ぐあァァァッ!?」
「ギャアッ!!」
「なにッ!? いつの間にあんなところへ……!?」
――土壁の内側にヴェルの姿は無く、小隊の背後に回り込んでいたヴェルは銃持ちの兵士達の背を矢で射抜き、戦闘不能へと追い込んだ。
「すばしっこいクソガキが……! だがもう逃さんぞ! 死ねェ!!」
――遮蔽物の無い場所へ姿を晒したヴェルに、スキンヘッドの隊長格がホルスターから抜いた銃を向ける。
その瞬間、隊長格の頭部に投擲された丸太がのしかかった。
「ゴバァッ!?!」
「隊長ッ!?」
「この丸太……まさか……!?」
「そのまさかだ、コラァッ!!」
「グアァァッ!?」
――兵士達の頭上に大量の丸太が投げ込まれ、戦場は阿鼻叫喚に包まれた。
「運のねぇ奴らだぜ……この【ジャンゴルディン・アットバウア】様が指揮を取る、前哨基地に攻め入っちまうなんてなァ!!」
「出たァ!? 黒鉄のジャンゴだァ!!」
「俺様の愛しい弟分に銃を向けたんだ……生きて帰れると思うなよォ!!」
――鋼鉄を先端にコーティングした丸太を肩に担いだジャンゴは、鬼神の如き形相で群がる兵士へと丸太を振り回しながら疾走する。
烈風を巻き起こす丸太の一振りを受けた兵士達は、身構えて直撃を防いだにも関わらず、自身の身長以上の距離を吹き飛ばされる程の衝撃を肉体に叩き込まれ、沈黙した。
「ば……バケモンだ……! 逃げろー!」
「逃がさないよ……"サルタンド・ロカ"!」
「ガッ……!?」
――ヴェルは右手に生命エネルギーを収束し、そのエネルギーを背中を向けて逃げ出した兵士達へと飛ばす。
エネルギーは空中で鋭利な岩に変化して、逃げ続ける兵士達の背中に突き刺さり、兵士達の動きを止めた。
「はん……数だけ揃えて、歯ごたえのねぇ奴らだ……」
「おつかれジャンゴ」
「ジャンゴ隊長〜!」
「おう、おせぇぞォお前ら!! もう終わっちまったから、生きてるやつをふん縛っておけ!!」
――たった二人で四十人の兵士達を制圧した現場に、二人の仲間達は若干引いた様子を見せながらも、ジャンゴの命令通り生存した兵士達を縄で拘束した。
「くそがァ……こんな穢れた一族なんかに……!」
「アァッ!? 誰が穢れた一族だァ!!?」
「落ち着いてジャンゴ」
「てめぇは落ち着き過ぎだぜ、ヴェルナンティスさんよォ……便利な魔術を過信して行動するから、こんな場所までわざわざ迎撃に来てくれるんだ。
ありがたい限りだぜ……」
「……? 何が言いたい……」
「直ぐにわかるさ……」
――その瞬間、けたたましい轟音が鳴り響き、前哨基地の方角に黒煙が上がった。
「何だァッ!?」
「……!? 前哨基地に急に何人も侵入者が……! どうなって……」
――焦るヴェル達の反応を見て、スキンヘッドの隊長格は狂ったように大笑いする。
「何がおかしい!」
「こんなに作戦が上手くいくたぁ思わなくてよ!! ヴェルナンティス! 皇国の優れた索敵能力が、お前の《地に脚をつけた者の位置を割り出す》土の魔術によるものだということは調べがついてんだ!!
それを逆利用して俺達は囮になり、てめぇらが基地から離れた隙に、空から奇襲部隊をてめぇらの基地に降下させたんだよォ!!」
「なんだって……!?」
「ヤベェぞ……! 精鋭を連れて来ちまったから、基地には碌な戦力が残ってねェ……。
しかもアルマを残して来ちまった……!!」
「直ぐに戻ろう!!」
「急げ急げ!! もう手遅れかもしれねぇがな!!」
――ヴェル達は拘束した兵士達を放置し、奇襲を受けた前哨基地へと急ぎ足で戻っていった。




